高速システム検証およびコンプライアンス・テストのための新しいディエンベッド、エンベッド、イコライゼーション・ソフトウェア

高速システムの検証とコンプライアンス・テストには、DUTからオシロスコープ入力までの信号経路全体にわたる可視化が必要です。これは、テスト・フィスクチャやインタコネクトのディエンベッド、現実的なシステム条件のエンベッド、場合によっては受信機のイコライゼーションを適用してTx/Rxの挙動をエミュレートすることを意味します。 そうして初めて、コンプライアンスと実際の性能の両方を確認できます。
テクトロニクスの新しいシグナル・インテグリティ・モデリング(SIM)ソフトウェアは、5シリーズB MSO、6シリーズB MSO、7シリーズDPOオシロスコープ上で動作し、信号のディエンベッド、エンベッド、イコライゼーションがオシロスコープ上で直接実行可能です。
SIMはPCIe、DDR5、USB4、マルチレーン・イーサネットなどのマルチギガビット・シリアル設計から最先端のRFおよびパワー・エレクトロニクスまで、設計がコンプライアンス要件と実際の性能要件の両方を満たすのをサポートします。 ケーブル、コンポーネント、フィクスチャからの反射、損失、遅延を除去・シミュレーションすることで、検証にありがちな落とし穴 - 「誤った失敗」と「誤った自信」 - を排除し、設定を反映した結果ではなく、デバイス自身を反映した結果を得ることができます。
本ブログでは、SIMがより早い市場投入のために、どのように信号経路を完全に視覚化し、規格コンプライアンスや実際の性能を検証するための自信を提供できるのかを解説します。
ディエンベッドによるDUTの正確な可視化
プローブの負荷、ケーブル損失、フィクスチャの反射は、高速、RF、高速スイッチング電源設計で一般的です。 これらの望ましくない信号経路効果を補正しなければ、被測定デバイス(DUT)が実際には正しく動作しているにもかかわらず、故障している、あるいはコンプライアンス不適合だと思い込んでしまい、「誤った失敗」に導いてしまうことになります。 ディエンベッドは、直接プローブが現実的でない場合や、PCIe、USB、DDRなどで定義された規格化されたテストポイント(TP0、TP1、TP2など)での可視化が必要な場合にも不可欠です。 この場合、ディエンベッドにより、測定基準面を仮想的に必要な位置に移動させることができます。
SIMソフトウェアでは、Sパラメータ、伝送線路、RLC、伝達関数、FIR、シャントなど、さまざまなモデルを定義し、セットアップによる損失、反射、遅延を補正できます。 SIMはまた、測定経路全体をカスケード化して表示する複数のモデルをサポートし、DUTの真の信号挙動を完全に把握できます。

図1. ディエンベッドの前後: 「SIM 1」で定義されたシミュレーションは「Math 2」に出力され、測定アーティファクトが除去され、よりクリーンな波形とアイダイアグラムが得られます。
実際の効果をシミュレートするためのエンベッド
クリーンな予備測定は「誤った自信」を生むことがあります。 デバイスは問題なく見えても、実際のシステムでは性能が崩壊します。 インピーダンスの不連続、チャネル損失、反射、ISIなどはリンクを断つことがあります。 また、DUTを必要な負荷インピーダンス内に収めるためにエンベッドが必要になる場合もあります。 したがって、実環境の影響をエンベッドすることは、コンプライアンスだけでなく、導入前の徹底したシステム・テストと検証にも不可欠です。
SIMソフトウェアは、バックプレーン、ケーブル、チャンネルなどの実世界のインタコネクトを仮想的にエンベッドすることを可能にします。例えば、USB3.0規格テストでは、SIMはPHYおよびコントローラ・インタフェースをエンベッドし、USB 3.0規格に準拠しているか確認できます。
また、Sパラメータ・モデルを適用してオシロスコープ上で様々な環境を直接シミュレートすることもでき、物理ハードウェアの構築や交換なしにマージン分析やシグナル・インテグリティ検証が可能になります。

図2. エンベッドによりISI起因のアイ高、幅の幅が減少
イコライゼーションで閉じたアイを開き、パフォーマンスを検証
今日のデータレートでは、チャンネルは損失、反射、クロストークを生じさせ、信号アイを収縮させ、タイミングや振幅のマージン測定を困難にします。 イコライゼーションは、実際のレシーバやトランスミッタの動作を反映した歪みを打ち消すことで、その可視性を回復させます。 その結果、よりクリーンなアイ、より正確なジッタやノイズの測定を可能にし、システムがコンプライアンスを満たすという確信を得ることができます。
固定された方法でフィクスチャ効果を除去するディエンベッドとは異なり、イコライゼーションは適応的です。周波数依存の挙動やチャンネル条件の変化に合わせて調整し、ハードウェアで実際に復元されるパフォーマンスを観察できます。 送信側では、プリエンファシスやディエンファシスなどの技術が信号がチャンネルに入る前に用意されます。 受信側では、CTLE、FFE、DFEなどの手法でアイを再構築し、遠端でのインテグリティを回復します。 この動的なプロセスは、PCIeやDDR5からUSB 3.0、マルチレーン・イーサネットまでの規格に不可欠です。

図3. レシーバのイコライゼーション用SIMソフトウェア・メニュー。
拡張SIMアプリケーションはこれらの機能をオシロスコープに統合しており、シリコンに直接アクセスすることなく、トランスミッタEQの適用、カスタム・レシーバ・モデルの構築、システムのマージンの探索ができます。 目標がコンプライアンス、デバッグ、あるいは設計の詳細観測、いずれのケースでも、イコライゼーションは測定値が信号の実際の挙動を反映することを保証します。
拡張SIMアプリケーション (SIM Advanced、SIMA)は2026年初頭のリリース予定です。
速く、簡単で、柔軟に
SIMソフトウェアの最新で直感的なユーザ・インタフェースは、エンジニアが早期立ち上げ、コンプライアンス、あるいはデバッグなど、いずれに注力する場合でも、プロセスをより簡単にするよう設計されています。 タッチ最適化された操作とシンプルなインタフェースにより、専門家でなくてもすぐに始められます。 簡素化されたワークフローと近代化されたアーキテクチャにより、最も単純なシナリオから最も複雑なシナリオまで、ディエンベッドおよびエンベッド・フィルタの迅速なセットアップと処理が可能となります。

図4. SIMメニュー内のM2テストポイントを使った単純なディエンベッド例で、物理モデルをディエンベッドした後にMath 2の波形が得られます。
無制限のシミュレーションやテスト・ポイントを含む強力な機能

図5. SIMソフトウェアを用いた包括的な信号経路の可視化
SIMは事実上無制限のシミュレーションやテスト・ポイントの実行を可能にします。任意の仮想測定(テスト・ポイント)で信号を確認でき、各ブロックの前後効果を確認できます。 また、並行経路やより複雑な信号チェーンも、一度に一つのシミュレーションに限定されることなくモデル化できます。 結果は並べて保存されるため、元の信号と補正信号を直接比較し、仮想シナリオを素早く探ることができます。
例えば、PCIe Gen4リンクの異なるCTLEやFFE設定を評価して、どちらがアイ・マージンを最も効果的に回復するかを見極めることができます。 DDR5デバッグでは、レイアウトをコミットする前に複数のインタポーザとDIMMコネクタの組み合わせを比較できます。 USB4やDisplayPortのテストでは、ワークフローを一からやり直すことなく、ケーブルの長さや設計の違いによる影響を評価できます。
いずれの場合も、SIMは数時間にわたる「行ったり来たり」の時間を、数分間のサイドバイサイドの観察に短縮します。

図6. パラレルSIMは高速な想定検証を可能にします。例えば、最初に30.5cm(12インチ)のPCBトレースをディエンベッドし、次に61cm(24インチ)のPCBトレースを2つ目のモデルでディエンベッドして最適な設計性能とマージンを評価できます。オリジナルと、ディエンベッド後のアイと波形が示されています。
よりクリアなアイから、より深い洞察: SIMとDJAの併用
SIMソフトウェアとTektronixの拡張ジッタ解析ソフトウェア(DJA)を組み合わせることで、高速システムの信号伝送品質をより詳細に理解できます。 拡張ジッタ解析ソフトウェアは、TIE、アイ・ダイアグラム、BERバスタブ、スペクトル解析でジッタの発生源を分離し、総ジッタをランダム・ジッタ、確定的ジッタ、およびそれらのサブコンポネントに分解できます。 これらの洞察を活かしてジッタを根本原因と関連付けたり、SIMソフトウェアを使ってディエンベッドやアイ開口を開くことが可能です。

図7. SIMと拡張ジッタ解析(Opt. DJA)を組み合わせて取込み信号とディエンベッドした信号を比較
上の図は、SIMとDJAが連携してどのように信号品質を物理的および統計的に向上させるかを示しています。 左上のパネルは取り込んだ波形を示し、右側のパネルはSIMディエンベッドでフィクスチャやインタコネクトの効果を除去した後の同じ波形を示しています。 アイ・ダイアグラムは大きく開き、TIEヒストグラムは時間軸方向で狭まり、総ジッタが減少し、タイミング安定性が向上していることがわかります。
また、ISIやデータ依存ジッター(DDJ)はディエンベッドによって大部分除去された一方で、残ったジッタは周期的、確定的(相関的)な成分によって支配されており、トランスミッタのPLL位相ノイズ、電源結合、または遅いクロック変調に起因する可能性が高いことを示唆しています。 TIEスペクトルと並べて見ると、全体のノイズフロアが低く、周波数とともに低下していることを示しており、高周波ノイズは抑制され、ゆっくりとした周期的なワンダが支配的であることが明らかになります。
バスタブ・プロットはこれらの向上をさらに裏付けており、エッジの傾きが急になるほど広がり、ディエンベッド後にビット・エラー確率が減少し、タイミング・マージンが拡大することを示しています。 SIMは物理的な信号経路を明確にし、DJAはジッタの発生を定量化することで、エンジニアにシグナル・インテグリティと根本原因の一体化した、完全な情報を提供します。
シグナル・インテグリティ・モデリング・ソフトウェアで市場投入を加速
新しいシグナル・インテグリティ・モデリング・ソフトウェア (SIM)ソフトウェアの直感的な設計と強力な機能により、高速システムを迅速かつ正確に探索、反復、最適化するのに役立ちます。 市場への早期導入、コンプライアンス、デバッグのいずれのケースでも、SIMを活用すれば意思決定を加速し、コンプライアンスを確保し、これまで以上に早い市場投入を可能にします。
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