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オシロスコープのトリガとは?仕組みとレベル、使い方


オシロスコープのトリガ機能

オシロスコープは、電気信号の世界に向けて開かれた窓です。しかし、初期のオシロスコープは繰り返し信号や連続的な電気イベントしか表示できなかったため、そのアプリケーションは限られていました。ハワード・ヴォラム率いるTektronixが初のトリガ掃引オシロスコープを発表したのは、1947年のことです。

この新しいトリガ掃引式オシロスコープとその校正された目盛表 示により、電気パルスの一般的な特徴を観測する定性的ツールに 過ぎなかったオシロスコープは、エレクトロニクス業界に大きな 変革をもたらした定量的な計測器へと変貌を遂げました。エンジ ニアは初めて、あらゆる種類の信号のトランジェント・イベント(過 渡現象)を取込み、電圧やタイミングを正確に測定できるように なったのです。以来、当社は革新的なトリガ技術でマーケットを 牽引し続けています。

トリガ・イベントは、「ウィンドウ<取込み範囲>」が停止するポ イントを特定できるので、何が回路内で起こっているか観測する (取込む)ことができます。たとえば、車で旅行するときのことを 考えてみましょう。目的地に最短時間で到着することを優先しま すが、途中、名所旧跡の写真も撮りたいものです。高性能車を使 うので目的地にすぐに到着できることはわかっています。となれ ば、問題は撮影プランだけです。友人に運転してもらいながら、 自分は気が向いたところで窓越しに撮影するというのも一つの方 法ですが、写真の出来については祈るしかありません。確実性の 面で大いに問題があります。

それより、あらかじめ撮りたい場所を決めておき、そこで車を止 めてもらい、カメラを構えれば、確実によい写真が撮れるはずです。 実は、多くのオシロスコープ・アプリケーションの波形データは、 旅行中の関心がない99.99%の景色と同じです。高速のデバッグ・ アプリケーションでは、回路は99.999%(あるいはそれ以上) の時間は正常に動作しています。つまり、システムがクラッシュ するのは0.001%の時間であり、詳細に観測すべき波形も全体の 0.001%に過ぎません。カタログ仕様(周波数帯域、サンプル・レー ト、レコード長)がどんなに優秀なオシロスコープでも、測定し たいデータを捕捉できないのであれば、デバッグ/解析ツールと しての用は果たしません。

当 社 のDPO7000シ リ ー ズ、DPO/DSA70000Bシ リ ー ズ、 MSO70000シリーズが搭載しているPinpoint®トリガ・システ ムは、業界で最も包括的な高性能トリガ・システムです。通常の スレッショルドやタイミング関連のトリガ機能はもちろんのこと、 A、B両方によるイベント・トリガ、ロジック・クオリフィケー ション、ウィンドウ・トリガ、リセット・トリガを装備しており、 トリガ・イベントをきわめて自由に定義することができます。

SiGe(シリコン・ゲルマニウム)半導体技術に基づくPinpointト リガでは、オシロスコープのアナログ帯域全体に渡ってすべての トリガ機能を使用し、検出の難しい高速デジタル設計のイベント を“ ピ ン ポ イ ン ト ” で 特 定 す る こ と が で き ま す。DPO/ DSA70000Bシリーズ、MSO70000シリーズの拡張サーチ/ マーク機能は、波形固有のイベントを検出することができます。 取込んだ波形から複数のイベントを検出し、それぞれのイベント にマークを付けます。サーチ/マーク機能はPinpointトリガ・シ ステムと関連性があり、共に信号の特性を識別するために使用し ます。サーチ/マーク機能には、Pinpointトリガ・システムの持 つ信号形状の識別機能があり、ライブ・チャンネルでも、保存さ れた波形でも、演算波形でも利用できます。この入門書では、ま ずトリガ全般の基礎を押さえ、その後で、Pinpointトリガの革新 的な世界について説明します。

オシロスコープのトリガとは?仕組みとレベル

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図1. トリガされていないオシロスコープ表示
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図2. エッジ・トリガ・メニュー

オシロスコープのトリガ機能は、信号の適切なポイントにおいて水平掃引を同期させ、信号の正確な評価を可能にします。トリガの操作は、繰り返し波形を安定させたり、単発信号を取込むために行います。トリガは、入力信号の同じ部分を繰り返し表示することにより、オシロスコープ上に安定した繰り返し波形を表示します。掃引の開始ポイントが毎回異なると、表示される波形は乱雑なものになります(図1を参照)。トリガ掃引のオシロスコープ が登場する前はこういった状態だったのです。

エッジ・トリガ

エッジ・トリガは、最初に考案されたトリガであり、最も基本的かつ一般的なトリガであり、すべてのオシロスコープがこの機能をサポートしています。エッジ・トリガは波形の基本特性である振幅やタイミングを観測するのに適しています。図2に、Pinpointトリガ・システムのエッジ・トリガのセットアップ・ウィンドウを示します。

トリガ・ソース

オシロスコープはほぼ常にトリガしている必要がありますが、その対象は表示中の信号とは限りません。トリガ掃引で一般的に使用される信号ソースには、以下のようなものがあります。

  • 入力チャンネルに入力された信号
  • 入力チャンネルに入力された信号以外の外部ソース
  • 商用電源のライン信号
  • 1つ、またはそれ以上のチャンネル入力信号を評価し、それに基づいてオシロスコープ内部で算出した信号

ほとんどの場合、表示中のチャンネルをトリガ対象とするのが普通です。しかし、表示する、しないにかかわらず、どのチャンネルの入力でも、またはトリガ入力端子に接続された信号でもトリガすることができます。当社のほとんどのオシロスコープには、トリガ信号をカウンタ、シグナル・ソースなどの外部機器に供給できる独立した出力機能が用意されています。

 
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図3. トリガ・レベルとスロープ
 

独立したトリガ・レベル設定

多くの電子デバイスは、入力電圧要件の異なるさまざまなロジッ ク・ファミリを使用しています。そのため、ロジック・ファミリ ごとにスレッショルド電圧を設定する必要があります。従来のオ シロスコープでは、すべてのソース・チャンネルにおいてトリガ・ レベル設定を共有していました。

別のチャンネルをトリガ・ソースとして選択する場合、そのたび にスレッショルドを変更しなければなりませんでした。Pinpoint トリガ・システムでは、入力ソースごとに異なるトリガ・レベル を設定することも、すべてのチャンネルで共通の設定を使用する こともできます。

トリガ・レベルとスロープ

トリガ・ポイント定義の基本となるのが、トリガ・レベルとスロー プです。この設定により、表示される波形が決まります(図3を参 照)。エッジ・トリガではスロープ(立上りまたは立下り)とレベ ルを設定し、信号がこの条件を満たすとオシロスコープはトリガ します。これをスレッショルド・クロスといいます。トリガ・レ ベルはディスプレイの右端に小さな矢印で示されます(図4a〜4c を参照)。矢印の色は選択されたトリガ・ソース・チャンネルの色 に対応します。トリガ・レベルは、ピーク・ツー・ピーク電圧の 50%に設定するのが一般的ですが、必ずそうしなければならない というわけではありません。

トリガ・ポジション

オシロスコープ前面パネルの水平ポジション・ノブは、トリガ・ イベントの表示位置を決めるために使用します。水平ポジション を変化させると、トリガ・イベント以前の状態(プリトリガ)を 観測できます。つまり、水平ポジションを変えることで、トリガ・ ポイント前後の観測時間を調整することができます。

デジタル・オシロスコープでは、連続的に入力信号を処理してい るため、トリガの有無にかかわらずプリトリガを観測できます。 オシロスコープのメモリにデータ・ストリームが常に流れ込んで いて、トリガが発生すると、その時点のデータがメモリに保存さ れます。これがトリガの基本的な仕組みです。プリトリガはトラ ブルシューティングで大いに役立ちます。間欠的に問題が発生す る場合によく行うのが、問題にトリガしてレコード内をスクロー ルし、イベントの原因を解析するという方法ですが、問題の原因 がトリガより前で見つかることもよくあります。

図4では、トリガ・ポジションは左から4番目の目盛位置に設定さ れており、これは水平掃引の40%の位置に相当します。トリガ・ ポイントは、レコード内の0〜100%の任意の位置に設定するこ とができます。100%に設定すると、すべてのレコードにはトリガ・ ポイント以前のデータが記録され、トリガ以前の観測時間が最大 になります。0%に設定すると、すべてのレコードにはトリガ・ポ イント以後のデータが記録され、トリガ以後の観測時間が最大に なります。トリガ・イベント後のすべてのレコード長よりさらに 後ろを観測する場合は、遅延トリガを使用します。遅延トリガに ついては、後ほど説明します。

両方のエッジでトリガ

トリガ・システムでは、立上りスロープと立下りスロープの設定(図 4aと図4b)が長年使われてきました。Pinpointトリガ・システ ムでは、立上りスロープと立下りスロープの両方でトリガでき(図 4c)、高速のクロック信号、データ信号のジッタ観測に適していま す。図4a、4b、4cは、トリガ・スロープをそれぞれ立上りエッジ、 立下りエッジ、その両方に設定した場合の様子を示しています。

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図4a. 立上りスロープによるトリガ
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図4b. 立下りスロープによるトリガ
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図4c. 立上り/立下りスロープによるトリガ

図4. 40%のトリガ・ポジションは、オレンジ色の三角矢印で示されている。10mVのトリガ・レベルは、黄色の矢印で示されている

トリガの種類と使い方

パラレル・バスやシリアル・バスのデジタル信号のように波形がますます複雑になると、従来のエッジ・トリガだけでは、波形を取込むことができないことも考えられます。冒頭のたとえ話(写真撮影)に戻りますが、エッジ・トリガだけでは、写真を撮るために「どこで止まればいいのか」という情報をオシロスコープに伝えることができません。

拡張トリガは、入力信号に対してより厳密に条件を指定し、本来の幅より狭いパルス波形であっても簡単に検出することができます。エッジ・トリガだけではこのような波形を検出することはできません。拡張トリガを操作することで、特定のイベントを分離することができるのです。

Pinpointトリガ・システムには、取込もうとしているイベントの種類に対して高度な選択機能を備えており、振幅(ラント・パルスなど)、時間指定(パルス幅、グリッチ、スルー・レート、セットアップ/ホールド、タイムアウト)、ウィンドウ・トリガを使用した振幅と時間の組合せ、あるいはロジック・ステートまたはパターン(ロジック・トリガ)などで定義したパルスにトリガすることができます。

直感的なユーザ・インタフェースにより、トリガ・パラメータをすばやく設定でき、柔軟性の高いテスト・セットアップで生産性を最大限に高めることができます。拡張トリガ・メニューは、マウスまたはオシロスコープのタッチ・スクリーンでトリガ設定メニュー項目を選択することで表示できます。あるいは、前面パネルのTRIGGERセクションのADVANCEDボタンを押しても表示されます。

多くのオシロスコープにはAトリガとBトリガが装備されています。通常、A(メイン)トリガにはすべての機能が組込まれており、拡張トリガも含まれています。一方、2番目のBトリガは、エッジ検出のみに限定されています。AトリガはBトリガの前提となる条件を検出します。Aトリガが発生すると、Bトリガが指定された電圧スレッショルドを探すという仕組みです。

Pinpointトリガを装備した当社のDPO7000シリーズ、DPO/DSA70000Bシリーズ、MSO70000シリーズ・オシロスコープは違います。2つのトリガ回路はどちらも同等の機能を持ち、Aイベント、Bイベントの両方ですべての拡張トリガを使用できます。これをデュアルA-Bイベント・トリガといいます。

 
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図5a. グリッチ・トリガ
 

Pinpointトリガで使用可能なデュアルA-Bイベント・トリガの種類には、エッジ、グリッチ、パルス幅、ラント、タイムアウト、トランジション時間、セットアップ/ホールド、パターン、ステート、ウィンドウ。

グリッチ・トリガ

グリッチ・トリガは、指定された幅よりも狭いパルスのイベントのみを検出(あるいは除外)します。負、正、または正負のいずれかの極性が選択できます。このトリガ操作により、発生頻度の低いグリッチでも、その原因と他の信号への影響を確認できます。Pinpointトリガ・システムのユーザ・インタフェースでは、最小リアーム時間1は300psで300ps未満のグリッチをサーチし、最小150psのグリッチまで検出することができます。図5aは、グリッチ・トリガを使用してクロストーク問題を調べた例です。Ch1は、システムのロジックが不安定になっている原因のグリッチにトリガし、Ch3は隣接したデータ・ラインから問題の信号を識別します。

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図5b. パルス幅トリガ
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図5c. ラント・トリガ

パルス幅トリガ

パルス幅トリガは、2つの指定時間範囲内のパルスのみを検出(あ るいは除去)します。このトリガは、例えば長い“0”シーケンス の後の“1”の検出など、長いビット・シーケンスの後でステート が変化した場合に発生するISI(Inter-Symbol Interference、シン ボル間干渉)の観測に適しています。8B/10Bエンコーディング のビット時間は1〜5ビットですが、PRBS信号の幅はこの範囲を 超えることがあります。

パルス幅トリガでは、パルスの極性は正または負が選択できます。 パルス幅の範囲は150ps〜1sで、ユーザ・インタフェースで最 小300psまで設定できます。リアーム時間は300psです。図5b では、パルス幅トリガを使用して、高速シリアル・ビット・ストリー ム(3.125Gbps以上)で4ビット長の正パルスのみにトリガして います。

ラント・トリガ

デジタル信号のラント・パルスは、デジタル・システムの暴走の 原因になるメタステーブル状態を表していることがよくあります。 ラント・トリガは、設定された2つの振幅スレッショルド間をパル スが出入りする場合にのみトリガします。時間でも設定すること ができ、最小のパルス幅は200psです。リアーム時間は300ps です。極性は、負、正、またはそのいずれか、が選択できます。 図5cでは、ラント・パルスのトリガ・レベルが、特定のロジック・ ファミリの最小スレッショルド値に設定されており、設定値以下 のパルスが取込まれています。

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図5d. タイムアウト・トリガ
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図5e. トランジション時間トリガ

タイムアウト・トリガ

システムによっては、クロックまたはデータ・シグナリングの“デッ ドタイム”が設計に組み入れられていることがあります。しかし、 他のシステム・イベントとタイミングが合わないと、デッドタイ ムはシステム通信エラーの原因になります。デッドタイムにトリ ガすると、その有無を確認し、他の信号とのタイミングを調べる ことができます。タイムアウト・トリガでは、指定した時間に渡っ てイベントがハイ、ロー、またはそのいずれかのままである場合 にトリガすることができます。この時間は300ps〜1sで設定で きます。図5dは、双方向バスのデータ・ストリームからタイムア ウト・トリガで検出したデッドタイムの例です。タイマは信号内の どのデータ長よりも確実に長い100nsに設定されています。デッ ドタイムは約340nsです。アクイジション・カウンタは、10秒 間で45回のタイムアウト・イベントを検出しており、これは繰り 返しビット・ストリームの時間のわずか0.0000015%でイベン トが発生していることを示しています。

トランジション時間トリガ

動作環境において、エッジ(トランジション時間)が必要以上に 高速である場合、やっかいなエネルギを放射することがあります。 逆に、クロックのトランジション時間が遅すぎると、回路が不安 定になる原因となります。トランジション時間トリガでは、ロー からハイ、またはハイからローのスレッショルドに変化する時間 間隔が、設定した時間より遅い(大きい)または速い(小さい) 場合にトリガします。極性は正、負、またはそのいずれか、を選 択できます。図5eは、トランジション時間トリガを使用して、 3.5nsよりも遅いクロック・エッジを検出した例です。

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図5f. セットアップ/ホールド・トリガ
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図5g. ウィンドウ・トリガ

セットアップ/ホールド・トリガ

セットアップ/ホールド時間違反は、システム全体に影響するデー タ・エラーの原因となります。セットアップ/ホールド・トリガで は、同期データ信号がセットアップ時間とホールド時間の設定を外 れたときの、信号品質とタイミングの詳細を簡単に取込めます。こ のトリガは、正(または負)のクロック・エッジについて設定し たセットアップ時間およびホールド時間ウィンドウ内で、正また は負のデータ・エッジ(トランジション)が発生した場合にトリ ガします。他のトリガ・タイプでは見逃してしまう違反であっても、 セットアップ/ホールド・トリガならば確実に捉えることができ ます。図5fは、セットアップ時間300ps未満、かつ、ホールド時 間300ps未満の設定で捉えた1165の波形取込みの例です。

ウィンドウ・トリガ

多くの高速設計では、複数の内部コンポーネントが回路基板上の 同じバスを共有し、ハードウェア制御またはソフトウェア制御の バッファ・アレイによって、メイン・バスで適切なデータを多重 化します。このような多重化のロジックでは、一度に1つのコンポー ネントしかバスを使用することができません。しかし、設計エラー が原因で、2つのロジック・レベルを持つべきバスに、“1”でも“0” でもない“中間”のステートが現れるバスの衝突が発生します。 ウィンドウ・トリガは、このバスの衝突を簡単に取込むことがで きます。ウィンドウ・トリガでは、ユーザが設定した2つのスレッ ショルドと時間軸によって定義されているウィンドウを、イベン トが出入りしたときにトリガします。さらに、ウィンドウ・トリ ガでは時間も設定でき、四角形の時間ウィンドウを構成し、信号 の出入りでオシロスコープをトリガすることもできます。最小 ウィンドウ幅は150psで、最小リアーム時間は500psです。図 5gは、バスの衝突イベントを取込んだ例です。トリガ・レベルは、 適切なロジック・ファミリのハイとローのスレッショルド電圧に 設定されています。

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図6. ロジック・クオリフィケーションによるセットアップ/ホールド・トリガ
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図7a. ロジック・パターン・トリガ

ロジック・クオリフィケーション

Pinpointトリガは、ここまで説明した拡張トリガ(グリッチ、パ ルス幅、ラント、タイムアウト、トランジション時間、セットアッ プ/ホールド、ウィンドウ)に、ロジックによる設定も組み合せ ることができ、イベントを特定するためのさらに強力なツールと なります。図6は、ロジック・クオリフィケーションを使用してセッ トアップ/ホールド違反を取込んだ例です。Ch1(黄色)がデータ、 Ch2(青)がクロックです。トリガ・イベントはCh3(マゼンタ) とCh4(緑)が共にハイで設定されています。ロジック条件が満 たされた場合にのみセットアップ/ホールド違反でトリガします。 デジタル回路では、観測する信号のロジック・ステートに基づい てトリガ条件を設定するのが望ましいことがあります。4チャンネ ルのオシロスコープでは、最大4入力のロジック・ステートでトリ ガすることができます。

Pinpointトリガ・システムには、次の2種類のロジック・トリガが用意されています。

ロジック・パターン・トリガ

ロジック・トリガ(図7a)では、任意の入力チャンネルのロジッ クの組合せでトリガでき、特にデジタル・ロジックの動作検証に 適しています。オシロスコープは、入力チャンネルのロジック・ パターン(AND、OR、NAND、NOR)が満たされた場合にトリ ガします。従来のロジック・ファミリ(TTLとECL)用には、あ らかじめ定義されたスレッショルド・レベルが用意されています。 高速CMOSなどのロジック・ファミリについては、任意にスレッ ショルドを設定することもできます。MSO70000シリーズでは、 トリガ条件として20ビットまでのロジック・パターンを設定する ことができます。これは、タイミング検証が重要なメモリ・バス において、複雑な設計の特定のシステム状態を検出するのに適し ています。

 
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図7b. ロジック・ステート・トリガ
 

ロジック・ステート・トリガ

ロジック・パターン・トリガ同様、ロジック・ステート・トリガ では、Ch1、Ch2、Ch3(MSO70000シリーズではチャンネル D0~D15)の任意のロジック・パターンの定義に対して、Ch4 (MSO70000シリーズではClk/Qual)の立上りまたは立下りク ロック・エッジでトリガします(図7b)。このタイプのトリガは、 フリップフロップやシフト・レジスタを持った回路の伝播遅延や メタスタビリティ問題のデバッグに最適です。また、独立したク ロック・ラインと多くのデータ信号があるパラレル・バスのトラ ブルシューティングにも適しています。一方、シリアル・トリガ(後 述)は、シリアル・バスのエンベデッド・クロックのトリガに適 しています。

メイン・トリガ・イベント

■ Aイベント

ここまでは、オシロスコープで波形を取込んで表示するための 条件を設定する、10種類のトリガ・タイプについて説明しまし た。最新の高性能オシロスコープでは2種類のトリガを定義で きます。当社のオシロスコープではこれをAおよびBイベントと 呼んでいます。Aイベントについては、メイン・トリガ・イベン トと呼ぶこともあります。多くのアプリケーションでは、検出 すべきイベントは1つだけであり、Aイベント・トリガだけでも 十分です。

■ 遅延トリガ

検出したいイベントが、Aイベントから全波形レコード長より 離れたところにある場合は、遅延トリガを使用するとスクリーン 上にイベントを表示することができます。Aイベントからの遅 延は、時間(3.2ns〜3Ms)またはイベント数(1〜20億イベン ト)で設定できます。

■ A→Bシーケンス・トリガ

最も要求の厳しいアプリケーションでは、観測が必要な回路の 振る舞いを完全に特定するには1つのトリガでは不十分です。 冒頭のたとえ話に戻ります。写真を撮ろうとして車を止めたと ころ、より興味の湧く光景を見つけました。一羽のワシが止ま り木の上で羽を休めているのです。カメラの機能(ズーム、シャッ タ速度など)を使って、これを撮影します。このシーンと同様に、 高速のロジック回路では、イベントのシーケンスに基づいてト リガした方が望ましい場合がよくあります。そして、このよう な場合に、第2イベントまたはBイベントを定義します。

Bトリガ回路は、設定された時間(Delay by Time)またはイベン ト数(Delay by Events)の後に発生するイベントを検出する ように設定します。時間またはイベント数の条件を満たすと、 Bイベント回路は次に起こるイベントを取込むために待機しま す。従来のトリガ・システムでは、Bイベント・トリガはエッ ジによるトリガのみに限定されており、Aイベントの条件が満 たされた後、スレッショルドを横切るのがBイベントの唯一の 条件でした。

先にも説明したように、Pinpointトリガではより汎用性の高い デュアル・トリガ・システムを装備しており、Bイベントにつ いても豊富なトリガ・タイプを使用することができます。Aイ ベント/Bイベントはメニューが似ており、指定できる条件の 範囲も同じです。

 
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図8. ディスク・ドライブのリード・ゲート・シーケンス
 

リセット・トリガ

A→Bシーケンスを使用すると、複雑なシステムの一連のパルス・ イベントの中で、目的のイベントに行き着くことができます。た とえば、SOF(Start Of Frame)パルスをAイベントで使用し、 クロック・パルスをBイベントで使用すると、n番目のBイベント を選択することで、SOFからnクロック・サイクル後のシステム動 作を観測することができます。Delay by Timeトリガは、シンク・ パルス後の特定の時間、たとえば1μsの動作は無視したい場合に 使用します。

図8のタイミング・ダイアグラムは、ディスク・ドライブの一般的 なアプリケーションの例ですが、これに限らず、波形のある部分 を無視する必要のあるその他のデバッグ・アプリケーションにも 使用できます。図8の例では、デバイスのリード・ゲート・チャン ネル信号がハイの場合の欠陥データのみを識別する必要がありま す。この場合、Ch2はリード・ゲート・チャンネル信号に接続し、 Ch4は読み取られるデータを観測します。したがって、Ch2がロー の間はデータ信号を無視し、データに大量のパルスがある場合は Ch4にトリガすることが必要です。従来のトリガ・システムでは、 Bイベントの観測を中止することはできません。次に来るBイベン トをトリガするだけです。Bイベントが来なければ、来るまでいつ までも待ち続けます。Pinpointトリガでは、A→Bシーケンス・シ ステムにTrigger Reset機能を追加し、特定のリセット条件を満 たした場合はBイベントを待つことを中止することができます。

 
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図9. ドライブの欠陥でトリガ
 

リセット・トリガにより、シーケンス設定に次の3つの選択肢が追 加されます。それは、指定した時間経過後にAトリガをリセットす ること(Reset by Timeout)、指定した立上り/立下りトランジ ション後にAトリガをリセットすること(Reset by Transition)、 および、ロジック・ステートが合致した場合にAトリガをリセット すること(Reset by State)です。

図9は、Reset by Stateを使用して、データ信号のシンク・パル ス後の3番目のパルス(欠陥)にトリガした例です。Aイベントは、 データ信号のゲート信号(Ch2、青の波形)のエッジ・トリガです。 A→B Sequence By Eventsを使用して欠陥パルスにトリガしま す。ゲート信号がローの状態に戻るロジック条件を満たすと、ト リガ・シーケンスはリセットされます。トリガ・シーケンス全体 としては、欠陥が検出された場合にのみ確実にトリガします。

 
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図10. Pinpointトリガ・ステート・マシン
 

シーケンシャル・ロジック・トリガ

上記で説明したように、デュアルA/Bイベント・トリガとリセッ ト・トリガを組み合せると、トリガする(またはトリガしない) イベントのシーケンスを設定することができます。シーケンシャ ル・ロジック・トリガ・イベントを表すステート・マシンを図10 に示します。

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図11a. 従来のトリガ − 17通りの組合せ
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図11b. Pinpointトリガ − 1445通りの組合せsss

広がるトリガの選択肢

Pinpointトリガ・アーキテクチャは、オシロスコープの効率と有 効性に関する新基準を確立しました。リセット・トリガとデュア ルA/Bイベント・トリガを追加することで、従来最大でも約17 通りの組合せだった標準トリガの選択肢(図11a)が、図11bに 示すように1400通り以上に増えています。これらの組合せによ り、疑わしいエラー条件をより高い精度で定義することができ、 迅速に原因を特定することが可能になります。

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図12. コミュニケーション・トリガ
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図13. ビデオ・トリガ

アプリケーション固有のトリガ

Pinpointトリガ・システムのAイベント・メニューには、コンピュー タ・プラットフォーム、通信、ネットワーク、ビデオなどで使用 される複雑なフォーマットの信号を扱う作業を簡単にするための トリガ・タイプが追加されています。

コミュニケーション・トリガ

コミュニケーション(Comm)トリガは、Pinpointトリガ・シス テムのAイベント・メニューにあります。マスク・テストには、波 形をトリガして標準規格のマスク・テンプレートと比較すること も 含 ま れ て い ま す。 選 択 で き る の は、1.5Gbpsま で のAMI、HDB3、BnZS、CMI、MLT3、NRZのエンコード通信信号と、 6.25Gbpsまでの8B/10Bエンコード・シリアル・データです。 図12は、Serial ATA検証用の3Gbpsアイ・ダイアグラムの例で す。波形は、紺色のマスク領域(違反領域)には触れていません。 マスクのほかに、ヒストグラム(エッジが互いに交差するポイン トの上部に表示される薄い青のイメージ)が表示されていますが、 これは信号に含まれる複合ジッタを表しています。

 
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図14. DDR3のBイベント・スキャン・トリガの設定
 

ビデオ・トリガ

ビデオ・トリガ機能は、DPO7000シリーズ・オシロスコープに 標準で装備されています。ソリューション・レンジとしては、 NTSC、SECAM、PALビデオ信号における、フィールドの任意 のライン、全ライン、全フィールド、奇数または偶数フィールド の標準ビデオ・トリガが第一に挙げられます。表示目盛は、IREま たはmVスケールで表示できます。1080i、1080p、720p、 480pなどのアナログHDTV/EDTVトリガが内蔵されており、高 品位ビデオが急速に普及している分野で役に立つことが期待され ます。図13は、HDTVトリガ設定にて取込んだ波形です。

メモリ・システムのトリガ

DDR3信号の検証では、特定のリードまたはライト・バーストを 長時間(数時間)にわたって確実に取込むことが必要です。 Pinpointトリガ・システムのBイベント・スキャン・トリガとエン ハンスト・トリガ・モードを使用すると、オシロスコープのトリガ・ ジッタを最小にできるため、数多くの波形取込みにおけるバース トの各ビットの真のアイ開口を表示することができます。図14に 示すように、DDR3などのハイスピード・メモリ・システムで必 要となる、正確で効率的なタイミング検証が可能になります。

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図15. ロー・スピード・シリアル・プロトコル・トリガ
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図16. シリアル・パターン・トリガ

ロー・スピード・シリアル・プロトコル・トリガ

DPO7000シリーズには、もう1つのシリアル・トリガが装備さ れています。それが、ロー・スピード・シリアル・プロトコル・ トリガです。シリアル・プロトコル・トリガは、I2C、RS-232、 SPI、CANという4種類の一般的なロー・スピード・シリアル・バ スに特化した機能です。利用できるトリガ条件は規格によって異 なりますが、どの規格についても、最も一般的なシーケンスを使 用できるようになっています。たとえば、I2Cトリガ設定には、ス タート・コンディション、ミッシング・アクノレッジ、データな どが含まれています。CAN設定には、データ、リモート、オーバロー ド・フレーム・タイプ、アイデンティファイヤ、データ、ミッシン グ・アクノレッジ、ビット・スタッフィング・エラーなどが含ま れています。

図15は、アドレス01でトリガして表示したI2Cの取込み画面の例 です。MSO70000シリーズでは、I2C、SPIのシリアル・バスに おいてロースピード・シリアル・プロトコル・デコードとバス・ トリガが利用できます。このトリガ機能により代表的なシリアル・ バスをモニタすることができ、MSO70000シリーズの20GHz アナログ・チャンネル帯域でよりハイスピードな設計にも集中す ることができます。バス・トリガは、I2CまたはSPI規格に関連し たプロトコル・ワードにトリガするように設定できます。

Pinpointトリガを使用した、高速シリアル・バス設計の検証

高速の信号伝送では、シリアル・バスが一般的になりました。PCI Express、XAUI、InfiniBand、Serial ATAなど、多くの規格では、 差動技術を使用してデータやクロック信号を伝送しています。ク ロックはデータに埋め込まれていて、信頼性の高いクロック抽出 のために8B/10Bエンコーディングがしばしば使用されます。そして、マルチレーンのシリアル構成の登場が、さらに事態を複雑 なものにしています。4、8またそれ以上のシリアル“レーン”は、 信号成分をトランスミッタからレシーバまで高データ・スループッ ト(周波数帯域)で送ります。Pinpointトリガは、マルチレーン・ タイプを含むシリアル・バスの性能検証とコンプライアンス測定 に適しています。

シリアル・パターン・トリガ

当社DSAシリーズに標準で装備されているシリアル・パターン・ トリガは、6.25Gbpsまでのレートのシリアル・バス、または 1.5Gbpsのパラレル・データ・バスのデータ取込みに適していま す。シリアル・パターン・トリガは、64ビット長、8B/10Bエン コード・シリアル・データでは40ビット長までのパターンにトリ ガすることができ、今日の多くのバスをサポートする非常に強力 なデバッグ・ツールです。図16は、8B/10Bエンコードによる PCI Express 5Gbpsの111111のビット・ストリームを示して います。

パターン・ロック・トリガ

この機能は、優れた時間軸確度で長いシリアル・テスト・パターンを同期しながら取込むことができます。

ジッタ/タイミング解析を実行するとパターン・ロック・トリガ が使用され、長いシリアル・パターンからランダム・ジッタを検 出して除去します。データ・レートは6.25Gbpsまでサポートさ れており、パターン・ロック・トリガを使うことで特定のビット・ トランジションを検出し、マスク・テストにおいてデータをアベ レージングすることができます。この機能は、DSA70000Bシ リーズでは標準で、DPO70000Bシリーズ、MSO70000シリー ズではOpt. PTHで装備されます。

シリアル・レーン違反トリガ

マルチレーンの高速シリアル通信リンクは、各レーンのタイミン グのずれが一定の誤差内にとどまっている場合にのみ効果的に機 能します。そこで一部で用いられているのが、オシロスコープを 使用してレーン間の時間スキューを測定するという方法です(1つ のデータ・ストリームの1つのキャラクタにトリガし、レーン間の スキュー時間を観測します)。しかし、このような単純な方法では、 長い時間間隔において各レーンが時間的に相関がとれていること を確認することはできません。

 
シリアル・レーン違反トリガ
図17. シリアル・レーン違反トリガ
 

シリアル・レーン・スキュー違反トリガでは、任意の2レーン間の トレランスを外れた時間スキューにトリガすることで、この問題 を解決します。レーン・スキュー違反のパス/フェイル・テストは、 Pinpointトリガ・システムのデュアルA&Bトリガとリセット・ト リガを使用することで実行します。オシロスコープは指定期間(分、 時間、日、またはそれ以上)に渡って、トレランスを外れたレーン 間の時間スキューを待機し、トリガします。スキュー時間で違反 したイベントは取込まれて表示され、アクイジション・カウンタ でカウントされます。

レーン0の最初のトリガ・イベント(Aイベント)はコンマ・キャ ラクタで、パルス幅トリガで取込み、レーン1の2番目のトリガ・ イベント(Bイベント)はコンマ・キャラクタで、同様にパルス幅 トリガに設定します。仕様では、レーン0のイベントの後24.8ns 以内にレーン1の同じイベントが発生しなければなりません。最小 時間で遅延を設定してイベントBを待ち、リセット・トリガをトレ ランス仕様の24.8nsに設定します。図17は、オシロスコープを 使用してレーン・スキュー違反でトリガした例です。

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図18. ビーコン幅違反トリガ
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図19. プロトコル・トリガとデコード

ビーコン幅違反トリガ

規格に準拠しているシリアル通信デバイスの中には、電源が投入 されると、特殊なパケット・ヘッダと可変長データ・ブロックか ら成る“ビーコン”信号を発行して、通信チャンネル内における 自らの存在を通知するものがあります。この電源投入時にエラー が発生すると、ビーコン信号に余計な追加情報が含まれ、その状 態が長く続くことがあります。従来、このような可変長ビーコン 信号が規定幅に対して違反した場合、トリガできませんでした。

Pinpointトリガと強力なA、Bイベントの設定により、この問題を 解決することができます。Aイベントは、K28.5キャラクタで5つ の“1”または5つの“0”のパルス幅でトリガすることにより、ビー コン信号のヘッダ・パケットのK28.5コンマ・キャラクタを検出 します。ビーコン信号幅よりも長くなるようにトリガ・ホールド オフを設定することで、Aトリガはビーコン信号の最初のみに発生 します。

Bイベントは、タイムアウト・トリガを使用してビーコン信号の終 わりを認知し、信号のアイドル状態を検出します。ビーコン幅の 違反時間ウィンドウの始まりは、ビーコン幅の仕様のトリガ遅延 時間の終わりによって定義されます。ビーコン幅の違反時間ウィン ドウの終わりは、リセット・タイム・アウトによって定義されます。 このトリガ設定により、オシロスコープは違反時間ウィンドウ内 でビーコン信号の終わりが発生した場合にのみトリガします。図 18は、最小3.0msの仕様に対して違反したビーコン信号の例です。

 
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図20. プロトコル・トリガの設定メニュー
 

8B/10Bプロトコル・トリガとデコード

PTD(Protocol Trigger and Decode)ソフトウェアを使用す ると、取込み波形(高速シリアル信号)から8B/10Bデータを自 動的にデコードすることができます(図19の下部を参照)。同じ 画面にシンボル・リストが表示されるため、デジタル・データを 容易に検証することができます。PTDでサポートされるハイスピー ド・ シ リ ア ル 規 格 の プ ロ ト コ ル に は、PCI Express、Serial ATA、Serial Attached SCSI(SAS)、Gigabit Ethernet、 Infinibandなどがあります。

図20は、PTDソフトウェアのトリガ設定メニューです。このメ ニューから、8B/10Bデータの任意の4つのシンボル(40ビット) にトリガするよう設定することができます。これは、シリアライ ザ/デシリアライザ(SerDes)ベースのトリガであり、ディスパ リティとキャラクタ・エラーに対してリアルタイムに対応するこ ともできます。

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図21. 孤立ビット・パターンのトリガ設定
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図22. DPOJETによる孤立ビット・パターン

トリガ条件によるジッタ解析

ほとんどのシリアル伝送規格では、一兆分の一あるいはそれ以下 のBER(ビット・エラー・レシオ)、いわゆる10−12 BERが要求 されています。シリアル検証におけるタイミング、振幅、ジッタ の振る舞いは、DPOJETジッタ/アイ・ダイアグラム解析ソフト ウェアを使用して測定することができます。このツールセットは DSA70000Bシ リ ー ズ に 標 準 で、DPO70000Bシ リ ー ズ、 MSO70000シ リ ー ズ で は オ プ シ ョ ン で 装 備 さ れ て お り、 Analysisメニューからアクセスすることができます。DPOJETソ フトウェアは、“スペクトラム”手法を使って10−12 BERにおけ るトータル・ジッタを予測します。

DPOJETソフトウェアは、任意のパターンまたは繰り返しパ ターンで解析を行うことができます。シグナル・インテグリティ 測定用のテスト・パターンは、業界団体によって規定されています。 これにより、被測定デバイスにワーストケースのストレスを加え て測定するよう、統一が図られています。波形の特定のセクション でジッタを測定しなければならないこともよくあります。その場 合に役に立つのがトリガ条件です。

例として、Serial ATA IIデバイスのLBP(Lone Bit Pattern) を考えてみましょう。LBPは、周囲のビットとは異なる、孤立ビッ トを含んだ一連のワード(00001000など)です。ビット間隔 を333psとすると、00001000という孤立ビットの表現は、 1.33nsの負のパルスの後に333psの正のパルス、次いで999ns の負のパルスが続いていることになります。トリガ条件によるジッ タ解析を行うには、孤立ビット・パターンをデータ・ストリーム 内のユニークな存在として区別する必要があります。

3Gbpsで8B/10Bトリガを使えば、LBPを検出してオシロスコー プをトリガできると思われるかもしれませんが、残念ながらでき ません。これは、8B/10Bトリガはコンマ・キャラクタによって トリガ・システムと同期しているためです。このケースでは、ト リガ・システムでビットごとに精査して孤立ビットを特定しなけ ればなりません。正解は、A-Bシーケンス・トリガを使用し、Aイベン トは孤立ビットの前の0000シーケンスでトリガするように設定 し、Bイベントは孤立ビットより後の000シーケンスでトリガす るように設定するという方法です。図20に、この手順のトリガ設 定を示します。

LBPに安定してトリガすることで、連続した数多くのトリガが必要なジッタやアイの解析を実行することができます。図22に、LBPパターンをDPOJETで解析した結果を示します。

拡張サーチ/マーク

拡張サーチ/マーク機能はPinpointトリガ・システムを強化する 機能であり、シグナル・インテグリティ、タイミング問題の解決 に適しています。Pinpointトリガと拡張サーチ/マーク機能を併 用することで、特定の信号の特定のポイントを正確に検出するこ とができます。これにより、効率的なデバッグが可能になり、よ り詳細な波形解析が行えます。

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図23. FastAcqにより明らかになる問題点(グレイの表示)
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図24. Pinpointトリガで検出されたグリッチ

拡張サーチ/マーク(ASM)では、Pinpointトリガ・システムと ほぼ同じトリガ・タイプが使用でき、取込んだ波形をスキャンし、 特定のイベントを検出することができます。ハードウェアによる トリガでは一度に1つのイベントしか見ることはできませんが、 サーチ/マーク機能では複数のイベントを同時に観測することが できます。例えば、複数のチャンネルのセットアップ/ホールド 時間違反を観測することができます。また、DDRメモリのデータ 波形のリードまたはライト・バーストの開始、終了を同時に観測 することができます。高速なサンプル・レートとも相まって、 ASMは高速信号においてハードウェアベースのトリガよりも高い 分解能でスキャンすることができます。また、フィルタリングな どの関数、またはスペクトラム解析などを施した演算波形にトリ ガすることもできます。

図23は、ASMの機能と利点を代表的なデバッグ例で示しています。FastAcqで取込んだ波形を示しており、信号に含まれる問題点が表示されています。間欠的に発生するイベントがグレイで表示されており、正しくないエッジがところどころに見られます。

グリッチや不正なトランジションが疑われる場合は、Pinpointトリガを使用し、設定した幅よりも狭いパルスを検出します。このようにして検出されたグリッチの例を図24に示します。

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図25. Pinpointトリガのトリガ・タイプ設定
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図26. グリッチの検出方法を設定し、拡張サーチ/マークへコピー

さらにASMを使用すると、何が起こりつつあるか、また原因は何 かを理解できます。図25に示すように、Pinpointと関連したトリ ガ・タイプが選択でき、取込んだ波形をスキャンすることができ ます。検出方法のパレットには、セットアップ/ホールド違反など、 シグナル・インテグリティ問題などを検出するための数多くの選 択肢が用意されています。図26では、サーチ・メニューでグリッ チが選択され、さらにパラメータが設定されています。

PinpointトリガはASMと統合されており、一方のトリガ設定はも う一方のトリガ設定にもすばやく適用できます。この例では、 Setting Copy機能により、ボタン操作でPinpointトリガのグリッ チ・トリガをASMのグリッチ・サーチにコピーします。この機能 により、リアルタイムのトリガ・システムと後処理によるサーチ 機能の間での間違いを防ぐことができ、時間の短縮にもなります。

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図27. 5Mポイント波形のサーチ結果
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図28. ズーム表示
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図29. 拡張サーチ/マークによる複数のサーチ方法

ここでは、グリッチ・トリガでサーチと設定されており、その条件に合致した位置が示されます。図27は5Mポイントの波形での結果を示しており、4ns未満の正のパルスが検出されています。

図27のディスプレイ上部の緑色のマークは、ASMのサーチ条件で実際に検出したイベントの集まりを示しています。同じような波形に見えますが、ASMはグリッチの条件に合った数多くのイベントを検出しています。

図28は、一つ一つのマークを詳細に観測するためにズーム表示しています。画面右のPrev、Nextを選択することで、さまざまなマーク・ポイントを詳細に観測することができます。上の波形は、5Mポイントで100μsの時間になっています。

図28の下段では、2番目のマーク・ポイントの周りの波形をズーム表示しています。画面全体で1μsとなっており、2番目のマーク周辺を詳細に観測しています。ズーム倍率は任意に変更でき、より詳細に観測したり、倍率を下げて全体を観測することもできます。この例では、マーク1~4を比較しています。信号の不具合は、この繰り返しイベントが原因ではないかと推定されます。

従来のハードウェア・トリガ・システムは、一度に一つの信号特性しか対応できないため、他の条件を無視することになり、数多くの障害を検出するためにはさまざまなトリガ・タイプのシーケンスが必要になります。テクトロニクスのサーチ/マーク機能はPinpointトリガ・システムを補完しており、複数の波形において複数の条件で同時に効率良くサーチすることができます。

ASMの複数サーチで同時に障害を検出している例を図29に示しています。ASMでは同時に最大8種類のサーチが行えるため、一つまたは複数の波形で数多くのイベントを検出することができます。FastAcqにより、不適切なエッジや、スレッショルド間の長いトランザクション、完了しないトランザクションなども検出することができます。

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図30. サーチ条件でグリッチとウィンドウを選択
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図31. ウィンドウ・サーチの条件設定
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図32. グリッチとウィンドウによるサーチ結果

図30は、サーチ・パレットからグリッチとウィンドウが選択され、 右の一覧表に表示されている様子を示しています。あと6つのサー チ条件が、Ch1またはその他のチャンネルで設定できます。こう することで、設定しなおすことなく複数のチャンネルで複数の障 害条件を設定することができます。それぞれのサーチは独立して 設定できるため、Ch1で異なったスレッショルドまたは異なった パルス幅で別のグリッチを設定することもできます。

ウィンドウ・サーチは、グリッチ・サーチと同様の方法で設定で きます。図31の例では、上下のスレッショルド電圧内、または 5ns以内のグリッチ幅の信号をそれぞれのサーチで取込むように 設定しています。ウィンドウ・サーチでは、設定した領域を外れ た信号、例えば設定範囲を逸脱したオーバーシュートやアンダー シュートなどを検出することもできます。

この2種類のサーチを実行した結果を図32に示しています。画面 上部の緑の▼は、いずれかのサーチ条件に合致したポイントであ ることを示しています。この例では、最後のマークに移動してズー ム表示しています。図33は、このサーチ結果を一覧表で表示して います。ウィンドウ・イベントとグリッチ・イベントが混在して 検出されており、時間的な位置と条件なども表示されています。

 
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図33. 結果一覧
 

設定をPinpointトリガと共有でるだけでなく、長い波形取込みから繰り返し性のイベント、複雑なイベントを効率的に検出できるため、拡張サーチ/マーク機能は非常に優れた機能であるといえます。

図34はASMの結果一覧表です。イベントを一覧したり、長いレコード長でイベント間を瞬時に移動したり、長い時間間隔における正確なタイミング測定を計算することもできます。

 
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図34. 結果一覧
 

ASMでは、イベント検出後に波形取込みを停止することもできます。これは擬似トリガ・モードとしても使え、波形データを取込み、さまざまなサーチ方法でスキャンできます。一つでもサーチ条件が一致した場合、波形取込みは停止し、一致したポイントにマークが付きます。条件が一致しない場合は再度取込みが実行され(Run Continuousモードの場合)、この操作を繰り返します。

このように、ASMはライブ波形または演算波形のスキャンとして使用したり、擬似トリガとしても利用できます。この動作モードはソフトウェアベースの後処理ですので、ハードウェアベースのトリガ検出に比べて時間がかかり、ハードウェア・トリガの代わりにはなりません。しかし、ASMのサーチ方法は頻繁に発生するイベントに対して使いやすく、正確です。

まとめ|オシロスコープのトリガ機能

オシロスコープは電気の挙動を定量的に計測できるデバイスに変 貌しました。これは、当社がトリガ技術に関して成し遂げた飛躍 的革新の第一歩です。今日では、オシロスコープの用途は、わず か数psのランダム・イベントの取込みから、長時間の監視、解析 まで広範囲に渡っています。そして、これらすべての用途で必要 とされるのが、強力で汎用性のあるトリガ機能です。

最新のコンピュータ、シリアル・データ伝送システム、通信シス テムでは複雑な信号が使用されているため、トリガ機能について は今後もさらなる改良が必要です。これに応える形で、当社はデュ アルA-Bイベント・トリガ、ウィンドウ・トリガ、ロジック・クオ リフィケーション、リセット・トリガなどの革新的なトリガ機能 を備えたPinpointトリガ・システムを提供し、複雑な高速信号に 対応します。

拡張サーチ/マーク機能はPinpointトリガ・システムを強化する、 5シリーズB MSOミックスド・シグナル・オシロスコープ6シリーズ B MSOミックスド・シグナル・オシロスコープDPO70000SX ATIパフォーマンス・オシロスコープの強力な機能です。Pinpointトリガ、高速なサン プル・レート、ロング・メモリとともに使用することで、シグナル・ インテグリティ解析、システム・デバッグにおいて、数ある高性 能オシロスコープの中でも最も強力で効率的なソリューションを 提供することができます。

Pinpointトリガ・システムを搭載した最新の高性能オシロスコープをご紹介します。

5シリーズB MSOミックスド・シグナル・オシロスコープ 

5 Series B MSO - Front View

忠実度に優れた波形、多彩な測定表示、独自のスペクトラム解析、柔軟なプローブ技術により、設計の全体像を把握することができます。世界中のエンジニアに支持されている、直感的なユーザ・インタフェースをご体験ください。

6シリーズ B MSOミックスド・シグナル・オシロスコープ 

1GHz~10GHzの帯域幅での高速設計のトラブルシューティング/検証。低ノイズ、最大50GS/sのサンプル・レートで正確な測定を実現します。6チャンネル/8チャンネルの機種で設計のより詳細な解析が可能です。

DPO70000SX ATIパフォーマンス・オシロスコープ 

dpo70000sx-ati-oscilloscope-system

DPO70000SXシリーズATIパフォーマンス・オシロスコープは、高速な信号の挙動を優れた確度で取り込めるため、次世代設計の検証、動作確認、特性評価に最適です。最高70GHzの信号を低ノイズと優れた忠実度で取り込めるため、高確度な測定が可能になり、信号の特性を正確に把握することができます。