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オシロスコープ入門|誤差の原因と考察


本記事では、波形を正しく見せるために外せないポイントを、Q&A形式でわかりやすく解説します。これらのポイントを外せば、オシロスコープは正しい波形を表示できません。誤差が大きくなります。

サンプリング・オシロスコープ と呼ばれるオシロスコープは特殊な波形取込み手法により、100GHzもの超々広帯域性能を持ちますし、通常のオシロスコープでもDSP(デジタル信号処理)を用いて、周波数特性の補正をするタイプは1GHzを優に超え20GHzまでもの超広帯域性能を持ちます。これらのオシロスコープはここでは論じません。本記事では約1GHzくらいの周波数帯域を持つオシロスコープに限ってお話しします。なお、特別の断りがない場合、「オシロスコープ」は「デジタル・オシロスコープ」を指すものとします。

周波数帯域に関する誤差の原因と考察

まずは、周波数帯域に関する誤差の原因と考察から始めていきます。

ある周波数のサイン波を、同じ周波数帯域のオシロスコープで測れる?

オシロスコープの垂直軸に関する最も大きなスペックは「周波数帯域」です。カタログばかりか、実機のフロント・パネル上にもしっかりと明示されています。100MHzとか1GHzとかオシロスコープの性能が示されています。さて、問題です。

問題: 最高周波数帯域100MHzをうたうオシロスコープで繰返し周波数100MHz、振幅1Vのサイン波を観測すると、

  • ①振幅は1Vより大きく見える
  • ②振幅はちょうど1Vに見える
  • ③振幅は1Vより小さく見える

答えは③です。振幅は1Vより小さく見えます。理由は周波数帯域の定義の仕方にあります。エネルギーが半分、振幅が70.7%に低下した周波数をもって周波数帯域と定義します。つまり、周波数帯域と定められた周波数においては振幅が減少しているのです。よって、周波数帯域が100MHzぴったりのオシロスコープで観測すると、1Vの100MHzサイン波は0.707Vにしか見えません。(図1)

図1 周波数帯域の定義の仕方を示したもの

さて、また問題です。

問題: 最高周波数帯域100MHzをスペックでうたうオシロスコープで繰返し周波数100MHzのサイン波を観測すると、

  • ①振幅は70.7%より大きく見える
  • ②振幅はちょうど70.7%に見える
  • ③振幅は70.7%より小さく見える

答えは①です。サイン波の振幅は70.7%より大きく見えます。なぜならオシロスコープのスペックにおいて、周波数帯域は○○Hz「以上」と規定されており、100MHzのオシロスコープは実際100MHz以上あるからです。つまり、周波数帯域は余裕を持たせてスペックするので、振幅は70.7%より小さく見えることはありませんし、ちょうどピッタリでもなく、70.7%より少し大きめに見えます。それでも約30%もの大きな誤差となります。

振幅による誤差を小さくする方法

もっと小さな誤差で済ませるには、もっと広い周波数帯域を持つオシロスコープを使います。約1GHzくらいまでのオシロスコープの高域減衰特性はガウス曲線に近似していますので、この曲線をなぞると、もっと誤差の小さな結果を得るための周波数帯域を推測することができます。

100MHzのオシロスコープの例で見ると、30MHzくらいまでの周波数の測定にとどめれば、約3%の誤差で測定できることになります。これを「サイン波の3倍の法則」といいます。言い換えると、3%の誤差にするには3倍広帯域のオシロスコープを使用すればよいことが分かります。(図2)

図2 ガウス曲線

パルス波形の形はどう見える?

問題です。

問題: 最高周波数帯域20MHzをうたうオシロスコープで繰り返し周波数10MHzのパルス波を観測すると、

  • ①波形はきれいなパルス波に見える
  • ②波形は丸まった台形波に見える
  • ③波形はきれいなサイン波に見える

答えは②です。波形は台形波に見えます。パルス波の形状は、3次5次7次…と無数の奇数高次の高調波を含むことにより、形成されています。(図3)

図3 各パルス波形の形

ところが、高次の50MH(z5次)、70MH(z7次)、…は周波数帯域20MHzのオシロスコープでは減衰が激しく、パルス形状の形成が再現できません。結果、オシロスコープが表示する波形は、パルス波にはとても見えません。せいぜい3次高調波(30MHz)がわずかに通過し、波形を辛うじて台形にとどめるのが精いっぱいです。

図4では、250MHzのオシロスコープで取り込んだ波形を細い黒色で、20MHz帯域制限機能により、20MHzのオシロスコープとして取り込んだ波形は太い青色で表現されています。青色の波形は立ち上がり/立ち下がり部が斜めに表現され角も丸まっています。

図4 20MHzと250MHzのオシロスコープで見たパルス波形

パルスの繰返し周波数と周波数帯域の関係

問題です。

問題: パルス波形を正確に再現するために必要なオシロスコープの周波数帯域とパルスの繰り返し周波数との間には、

  • ①一定の法則がある
  • ②法則はない

答えは②です。パルス波は、その繰り返し周波数が5倍ほどの広帯域のオシロスコープで見ればイイと聞いたことがあるかもしれません。5倍の高調波が再現できれば、なんとかパルス波に見えるということからきた経験則です。

実際のところはどうでしょうか?4MHzのパルス波を20MHzと250MHzのオシロスコープで見たのが図5です。5倍である20MHzの周波数帯域を持つオシロスコープ(太い青色)では、立ち上がり/立ち下がり部分も鈍ります。(図5)

図5 パルスの繰り返し周波数より5倍広帯域のオシロスコープを用いた場合と、パルスの立ち上がりより4倍高速のオシロスコープを用いた場合

測定した立ち上がり時間も大きな誤差を持ちます。よって、「繰り返し周波数の5倍」ではダメなことが分かります。細い黒色の波形は、パルス波の立ち上がり時間に対して「4倍」以上の高速立ち上がりを持つオシロスコープで見た波形です。立ち上がり部の急峻な変化が正確に表現されていることが分かります。法則は、「周波数とは何のかかわりもなく、立ち上がりの4倍」です。4倍の根拠は次の説明を見てください。

立ち上がり時間は正確?

波形がサイン波の場合を除いて、パルス波であれ台形波であれ、一番高速の変化をする部分に注目しなければなりません。最も高速に変化する部分に最も高い周波数成分が含まれているからです。正しい波形の表示(再現)には、一番高い周波数成分を再現できるかどうかがキーになります。

例えば、周波数1kHzのパルス波形において、1kHzの周波数に注目する必要はほとんどありません。注目すべきなのは、最も高速に変化する、パルスの立ち上がり/立ち下がり部です。さて、問題です。

問題: 立ち上がり時間1nsをうたうオシロスコープで立ち上がり時間1nsを持つパルス波を観測すると、

  • ①立ち上がり時間は1nsより遅く見える
  • ②立ち上がり時間はちょうど1nsに見える
  • ③立ち上がり時間は1nsより速く見える

答えは①です。立ち上がり時間は1nsより遅く見えます。オシロスコープの立ち上がり時間の性能がパルス波形の立ち上がり時間に影響を与えるからです。

約1GHzくらいまでのオシロスコープは高域減衰特性がガウス曲線に近似しており、この場合のオシロスコープ固有の立ち上がり時間と被測定パルス波の立ち上がり時間との関係は図6の式で表されます。例えば、1nsと1nsの組み合わせでは1.4nsくらいに見えます。約40%もの誤差になるわけです。(図6)

図6 オシロスコープ上の表示波形は「オシロスコープ固有の立ち上がり時間」の影響を受けている

立ち上がり時間による誤差を小さくする方法

これをもっと小さな誤差で済ませるには、もっと速い立ち上がり時間を持つオシロスコープを使います。図6の式に代入すれば、もっと誤差の小さな結果を得るために必要なオシロスコープの立ち上がり時間が分かります。「立ち上り時間の4倍の法則」があり、3%の誤差に収めるなら4倍高速のオシロスコープを使用すればよいことが分かります。(図7)

図7 入力信号の立ち上がり時間とオシロスコープ固有の立ち上がり時間の関係による誤差の増加

立ち上がり部が高速変化しており、0から1へ変化するのに1nsである場合を例に取ると、「立ち上り時間の4倍の法則」に従って、4倍高速の250psより速い立ち上がり時間をスペックしているオシロスコープを選択すればいいのです。

立ち上がり時間と周波数帯域を結ぶ定数0.35

立ち上がり時間をスペックしていないオシロスコープの場合は、以下の計算式を適用することにより、周波数帯域から立ち上がり時間を計算できます。

<0.35=立ち上がり時間×周波数帯域>

この式により、上記の立ち上がり250psのオシロスコープは、1.4GHzの周波数帯域を持つオシロスコープであることが分かります。

真の立ち上がり時間

オシロスコープの性能が高く、オシロスコープの立ち上がり時間Toが、測定される真値Tsより4倍以上高速なら画面に表示された測定値Tは誤差が少ないのですが、オシロスコープの性能がそれほど高くない場合、大きな誤差を含んだTが表示されてしまいます。

そこで前述の等式、

により、真値Tsを計算により求める手法があります。つまりToが分かれば、画面に表示された測定値TからToの影響を除き、Tsを求めることができます。問題です。

問題: オシロスコープの立ち上がり時間スペック値Toから計算したTsはどうなる?

  • ①立ち上がり時間は1nsより遅く見える
  • ②立ち上がり時間はちょうど1nsに見える
  • ③立ち上がり時間は1nsより速く見える

答えは③です。オシロスコープの立ち上がり時間Toは必ず○○秒以下とスペックされています。つまり、オシロスコープの立ち上がり時間Toは「スペック値イコールではなく、本当はスペック値より小さい」です。よってオシロスコープの立ち上がり時間そのものを代入して計算すると、結果Tsは実際より小さめに計算されてしまいます。

言い換えると、真のTsは計算値よりちょっと大きめだと考える必要があります。可能なら、超高速パルス・ジェネレータを使用して測定した実際のオシロスコープの実力値Toを計算に用いれば、完ぺきです。2つ目の注意点は、Ts<<Toでないこと。オシロスコープの性能があまりにも低く、Toが大き過ぎては、計算結果をToがほとんど支配することになり、Tsの不確かさが巨大になります。

サンプル・レートに関する誤差の原因と考察

次に、サンプル・レートに関する誤差の原因について、考察していきます。

サンプル・レートが波形を変える(デジタル・オシロスコープ独自の注意)

デジタル・オシロスコープの動作は、まず波形をデジタイズして、デジタル点を得ることから始まります。波形を一定間隔でデジタイズする過程をサンプリングと呼び、サンプリングするスピードをサンプル・レート(単位はS/s:サンプル・パー・セック)と呼びます。

デジタル・オシロスコープにとって、波形を正しく再現できるかどうかは、前回の周波数帯域や立ち上がり時間に加え、サンプル・レートによっても大きく左右されます。(図1)

図1 サンプル・レートとは何か

サンプル・レートでサイン波が変形

ここで問題です。

問題: 観測したい波形の繰り返し周波数より、

  • ①サンプル・レートが低いと、単発取込みにおいて致命的な問題を起こす
  • ②サンプル・レートが低くても、単発取込みにおいて致命的な問題を起こさない

答えは①です。サンプリング対象の波形の繰り返し周波数に対して、サンプル・レートが高く(速く)なくてはなりません(「ナイキストの定理」によると、2倍より高速のサンプリングが必要です)。この条件がかなえられなければ、エイリアシングと呼ばれる現象が起きる場合があり、その波形はまったく正しくありません。オシロスコープがあり得ない波形を作ってしまうのです。(図2)

図2 DSOを使用したとき、信号周波数とサンプル・レートの関係により表示される「偽り」の波形

エイリアシングの例を出すまでもなく、オシロスコープが波形を点で表すことを考えれば、サンプル点は多いほど波形を忠実に再現できることが容易に想像できると思います。サイン波の周期より5倍から10倍速いサンプル・レートがあれば、サイン波の再現において良い結果を生みます。つまり100MHzのサイン波を観測するには、最高サンプル・レート500MS/sから1GS/sのサンプル・レートを持つオシロスコープが好ましいことになります。

図3、4はサンプル・レートが2.5倍のときと5倍のときの例です。

図3 一定振幅の1MHzのサイン波を、サンプル・レート2.5MS/sでとらえた波形

:図4 一定振幅の1MHzのサイン波を、サンプル・レート5MS/sでとらえた波形

2.5倍のときは一定振幅であるはずのサイン波がオシロスコープの画面においては変動して見えます。理論では2倍以上のサンプル・レートがあり、非常に多くの周期が取り込めれば、サイン波が正確に再現できることになりますが、実際にはオシロスコープのメモリに取り込まれたサイン波の数も有限です。これは、5倍から10倍速いサンプル・レートの必要性が実感できる波形です。

特殊な手法

さて、問題です。

問題: 観測したい波形の繰り返し周波数より、

  • ①サンプル・レートが低いと、いかなる場合も救いようがない
  • ②サンプル・レートが低くても、繰り返し波形ならば、救える場合がある

答えは②です。オシロスコープの中にはサンプル・レートが5倍どころか、逆に周波数帯域より低いオシロスコープもあります。周波数帯域より遅いサンプル・レートでは波形の再現はできないと思えるかもしれませんが、これはキーデバイス(A/Dコンバータ)の性能不足を特殊な取込み手法でカバーしたオシロスコープです。

等価時間サンプルについて

パルス波での法則

問題です。

問題: パルス波の再現において、パルスの繰り返し周波数と最適なサンプル・レートには、

  • ①一定の関係がある
  • ②まったく関係がない

答えは②です。パルス波の再現においては、サイン波よりもっと注意が必要です。立ち上がり時間のお話で説明したように、パルス波の繰り返し周期(周波数)はまったく考慮する必要がありません。一番高い周波数成分を持つ急峻(きゅうしゅん)な変化部分を考慮しなくてはなりません。この急峻な部分を正確に再現しようとすれば、そこに十分な数のサンプル点を打てることが大事です。

一般的に立ち上がり部分は4~5個のサンプル点が打てれば再現が可能だといわれます。そこで、急峻な部分の立ち上がり時間を知れば、そこに4から5個以上のサンプル点を打つのに必要なサンプル・レートが計算できます。

例えば、40nsの立ち上がり時間を持つ信号の再現においては、10nsから8nsの間隔でサンプルを打てば4~5個のサンプル点が得られます。ちなみに、サンプル間隔10nsをサンプル・レートに換算すると100MS/sとなります。

サンプル・レートでパルス波が変形

図6、7は立ち上がり約40nsのパルス波において、サンプル点が十分ではないときと十分なときの波形例です。立ち上がり部に打たれる点の数を1点と4点に変化させたものです。

図6 立ち上がり部に1点しかサンプル点を打てない場合の波形と自動測定結果

図7 立ち上がり部に4点サンプル点を打てた場合の波形と自動測定結果

立ち上がり部に十分な点が打てない場合、立ち上がり波形の形が変わり、立ち上がり時間も正しい値にならないことがわかります。波形の忠実な再現において、サンプル・レートが大事なことがおわかりだと思います。ただし、既述の大前提を忘れてはいけません。立ち上がり時間のところでお話ししたように、十分に高速な広帯域増幅部により立ち上がり部が鈍ることなく取り込まれていることが前提です。

増幅部においてすでに立ち上がりが鈍っていては、そこにいくら十分な数のサンプル点を打とうが、波形の正しい再現とはほど遠い話です。

レコード長も考慮

サンプル・レートは常に「レコード長(ポイント数)」と「観測時間」とを同時に考えるべきです。物騒な例ですが、サンプル・レートを機関銃、レコード長を弾丸の数、観測時間を撃ち終わるまでの時間と考えるとイメージしやすいかもしれません。機関銃を速く撃つ(速いサンプル・レート)と、あっという間に弾丸を使い切ってしまいます。

一方、機関銃を遅く撃つ(遅いサンプル・レート)と、弾丸が長持ちします。例としてサンプル・レート5GS/(s200psの間隔でサンプル点を打つ)の場合の観測可能時間を計算してみましょう。

サンプル点が1000ポイントなら200ns(200ps×1000ポイント)、1000000ポイントなら200μ(s200ps×1000000ポイント)の時間が観測できます。1msの時間を観測したい場合は、なんと5000000ポイント(1ms÷200ps)ものサンプル点が必要となります。かくのごとく高速サンプル・レートはサンプル点を多く必要としますので、観測時間を長くするにはレコード長(サンプル点)が長くなくてはなりません。

プローブや波形表示に関する誤差の原因と考察

周波数帯域もサンプル・レートも問題ないからといって、最後の詰めを誤らないように注意しましょう。

小さく表示した波形による誤差

さて問題です。

問題: 小さく表示した波形は

  • ①誤差が多くなる
  • ②誤差は多くならない

答えは①です。複数の波形を画面に表示する際、波形同士が重なることを嫌い、波形を小さくして縦に並べることがあります。この場合、画面の見掛けはいいのですが、波形の正確さに欠けます。下図のように、小さく表示した波形(黒色)を拡大して、デジタル化における量子化誤差を青色で見やすく表示しました。(図1)

図1 一見きれいに見える黒色の波形は、拡大してみると41レベルの階段状波形であることがわかる

量子化誤差が大きく、41レベルの階段状の波形(青色)であることが分かります。波形の再現がスムーズではありませんので、その波形から測定される結果は大きな誤差を持ちます。画面いっぱいに波形を表示すれば最大で256レベルの細かい量子化ができるため、正確な結果が得られることはいうまでもありません。

画面からはみ出す波形には要注意

問題です。

問題: 画面からはみ出すように波形を表示すると、

  • ①ゆがむことはない
  • ②ゆがむオシロスコープがある

答えは②です。画面の中に波形が収まることが望ましいのですが、波形の一部を正確に測定しようとしたときには、波形を画面からはみ出させることが必要になる場合があります。卑近な例では、スイッチング電源の損失計算にかかわる、飽和電圧の測定があります。

波形全体を表示したときには、飽和電圧部分はほとんど0Vにしか見えません。このような状態では、前述の量子化誤差が大きく、飽和電圧が正しく測れません。そこで下図のようにオシロスコープの感度を上げて、飽和電圧の部分が十分な大きさになるようにします。当然この場合、波形の上部は画面からはみ出してしまいます。

ここで要注意です。波形が下図のように画面からはみ出した場合、画面内の波形が大きくゆがんでしまうオシロスコープがあります。(図2)

図2 5V/divから1V/divに感度を上げると、波形がゆがむ例

ゆがんでしまっては測定する意味がありません。この性能はスペックとして規定されていないことも多いため、オシロスコープの選択においては、要注意です。

プローブが誤差を生む

観測すべき信号をオシロスコープに導くのがプローブの働きです。ほとんどのオシロスコープに受動プローブ が標準で付属しており、細い形状の先端をいろいろな個所に接続できる優れモノです。ところが、この受動プローブの使用前調節(プローブ補正)を怠ると波形が変形され、大きな誤差を生じます。その結果、

  • *波形の大きさが違って見える
  • *波形の形が違って見える

図3はその例です。

図3 プローブ補正を怠った場合の波形

上記のようになる理由はいろいろな資料に書かれていますが、要はプローブ補正の習慣を付けることが重要です。

グランド・リードが波形を変形

問題です。

問題: プローブの周波数帯域は、

  • ①どんな使い方をしてもスペックどおりに実現される
  • ②使い方によってはスペック以下になってしまう

答えは②です。受動プローブには、15cmくらいのワニ口付きのグランド・リードが付属しています。信号に接続する場合、このワニ口グランド・リードを使用しますが、これがくせ者です。

図4はワニ口グランド・リードの悪影響により、50MHz以上の周波数を測定した場合、本来1Vのはずの振幅が20~50%もの誤差を生じる例です。サイン波の観測において、せいぜい50MHzくらいまでの周波数でしか使えません。

図4 50MHz以上の周波数において、周波数特性が悪化した例

たとえ500MHzの周波数帯域をうたうプローブであったとしても、50MHz以上の周波数においては、ワニ口グランド・リードをあきらめ、専用のアダプタを使うことが必須です。「500MHzとうたい、ワニ口グランド・リードを標準で付属しておいて、何をいう」とお怒りにならず、その原理を知り、それを避ける手法を知りましょう。

多くの受動プローブの入力は入力抵抗Rp=10MΩ、入力容量Cp=10pFの並列回路を形成します。この容量とグランド・リードのインダクタンスLgが直列共振を起こします。(図5)

図5 入力抵抗Rp=10MΩ、入力容量Cp=10pFのプローブによりつくられた並列共振回路

物理現象ですので共振を避けることはできません。しかし、2つの解決策があります。

解決策1:長さの短いグランド・アダプタを使用する

長さの短いグランド・アダプタの例です。(写真1)

写真1 長さの短いグランド・アダプタ

これらのアダプタを使用することにより、プローブのうたう最高周波数帯域までの測定が可能になります。

解決策2:入力容量の小さなプローブを使用する

入力容量を10分の1くらい小さくすることにより、この問題を大きく改善したプローブがアクティブ・プローブ や差動プローブ です。100MHz以上の周波数において、15cmほどの長さのグランド・リードを使用しても、正しい測定ができます。短いグランド・アダプタと併用することにより、GHzを超える測定も可能となります。(写真2)

写真2 入力容量の小さなプローブの例

リード線による延長が波形を変形

針形状のプローブの先端を直接測定点に接続できればいいのですが、それができないことがままあります。プローブが入らないほど狭い場所に接続しなくてはならない場合は、プローブの先端から測定点までをリード線により延長して接続することがあります。

これも要注意です。前述のように、リード線のインダクタンスとプローブ入力容量の直列共振が起きます。これにより波形が大きく変形します。プローブの先端を延ばした場合は、実波形にはない大きな共振が生じ、波形が正しく表示されません。これに対しては、直列共振回路に抵抗器を挿入し、共振をダンプして変形を抑える手法が効果的です。共振がダンプされ、波形をかなり改善することができます。(写真3)

写真3 共振をダンプして変形を抑える延長アダプタの例

 

長い入力リードの扱いで波形が変形

高電圧を入力できる差動プローブ など、フローティング測定に適したプローブは入力部に長い入力リードを持つ構造です。この手のプローブは入力リードの扱いにより、特性が変化します。下図のように、2本のリードを軽くねじった状態においては、規定された最高特性が出ます。(写真4)

写真4 2本のリードをねじった場合と離した場合

しかし、距離の離れた2点間に接続する場合は2本の入力リードをねじることができません。2本のリードを離したままでは、数十MHzを超えない測定にとどめなければなりません。

デジタル・オシロスコープの短所とDPO

デジタル・オシロスコープが失ったもの

問題です。

問題: デジタル・オシロスコープはアナログ・オシロスコープが進化したものだから、

  • ①すべての面で、アナログ・オシロスコープをしのぐ
  • ②ほとんどの面でアナログ・オシロスコープをしのぐが、1つだけ劣る面がある

答えは②です。特別なモードを除き、オシロスコープは波形の一部を切り出し、表示しては、また切り出し、表示するという動作を断続的に繰り返しています。地震計のように切れ目なく連続して波形を描き続けているわけではありません。

つまり、1つ切り出してから次の切り出しまでに時間が空くのです。この空白の時間にどんなに大事な現象が起きていたとしても、切り出せないのですから、オシロスコープで見ることができません。この見ることができない時間(デッド・タイム)がデジタル・オシロスコープでは非常に大きいのです。この点に関しては、デジタル・オシロスコープはアナログ・オシロスコープより劣ります。

非常にまれに発生する異常信号をイメージしてください。このような異常信号が見えるためには、異常信号が発生する瞬間とオシロスコープの切り出しタイミングが一致しなければなりません。

異常信号にトリガをかけることができない限り、異常信号の発生とオシロスコープの切り出しタイミングは非同期(時間関係がない)なので、タイミングが一致するかどうかは確率に基づきます。デッド・タイムが大きければ大きいほど、タイミングの一致は困難で、確率的に低くなります。つまり、デジタル・オシロスコープでは「間欠異常をとらえる力」が欠落します。(図1)

 図1 デッド・タイムが大きければ大きい程、異常信号を捕捉できる確率は低くなる

デッド・タイムは波形の見た目にも大きくかかわります。切り出された波形は画面に表示されるのですが、最初明るく、だんだんと暗くなるように描かれ、一定時間(数十ms)後には波形は画面から消えてなくなります。次から次へと切り出された波形が高速に描写・減衰・消滅を繰り返せば、画面は濃淡(階調)のある豊かな表現となります。

頻度が高く波形がなぞる部分はいつまでも明るく、たまにしか波形がなぞらない部分は薄暗く表現されるので、濃淡による波形の微妙な挙動さえ見て取れます。アナログ・オシロスコープはこれができます。一方、デジタル・オシロスコープは大きなデッド・タイムのせいで、基本的に一筆書きのような薄っぺらな表現しかできません。

描写・減衰・消滅の一連動作において減衰時間を長くすることにより、濃淡をそれらしく見せるデジタル・オシロスコープもあります。しかし、長いデッド・タイムの減衰時間を長くすることによりごまかした濃淡表現は、微妙な挙動(頻度)の表現はできません。

DPO(デジタル・フォスファ・オシロスコープ)の登場

デッド・タイムが大きいことによる2つの問題を解決したのが、DPO(デジタル・フォスファ・オシロスコープ と呼ばれるオシロスコープです。デッド・タイムをアナログ・オシロスコープ並みに最小化することに成功し、「間欠異常をとらえる力」と「濃淡による頻度情報」を取り戻すことができました。(図2)

図2 デッド・タイムが小さいDPOのタイミング例

階調による頻度情報

頻度高く波形がなぞる部分はいつまでも明るく、たまにしか波形がなぞらない部分は薄暗く表現されるので、濃淡による波形の微妙な挙動が見て取れます。

図3 ごくまれに発生する異常信号が濃淡の薄い(青い)表現で、画面に表されている

画面の中に描かれる波形の濃淡は波形の発生頻度に比例しますので、濃い部分の頻度は高く、淡い部分の頻度は低いことが分かります。例を挙げれば、ビデオ信号の観測において、輝度の濃淡によって表現された振幅変動や輝度変動などから、ビデオ信号品質の評価ができます。デジタル・オシロスコープが失った濃淡表現を取り戻したDPOは、頻度に関する高い観測力を持ちます。

間欠異常をとらえる力

早く製品を市場に投入するには、デバッグの効率化が必須です。デバッグの効率化にはキーとなる以下3つのステップがあります。

1. 異常波形の有・無を目で見る

2. 異常波形にトリガをかけ、画面中央に静止させる

3. トリガ点の左側(過去の時間)から異常波形発生の原因を探す

まず、1ができなくては、デバッグは進みません。異常波形の有・無を目で見ることが、スタートです。DPOはデバッグの開始時点における「観測力」を飛躍的に高めることにより、著しい効率化を図ることができます。

まとめ:オシロスコープ入門|誤差の原因と考察

今日のオシロスコープは、もはや波形を見るだけの装置ではありません。オシロスコープに満載された豊富な機能を活用するだけで、皆様の仕事を大きく効率アップさせることのできる「魔法の箱」です。しかし、便利過ぎる機能を使うことに慣れ、オシロスコープの基本を押さえることを忘れては本末転倒です。

本記事では「いまさら聞けないオシロスコープの基本」と題して、波形を正しく見せるために、外せないポイントを説明しました。これらをしっかり押さえることにより、オシロスコープを真に使いこなせるエンジニアを目指してください。

 

オシロスコープ関連製品 

テクトロニクスのオシロスコープやプローブをご紹介します。

オシロスコープ

6 series MSO mixed signal oscilloscope

シンプルなものから多機能なものまで、幅広いラインナップ。あらゆるニーズに対応しています。

プローブ

Current probes for oscilloscopes

電流プローブや差動プローブなど、100種類以上のプローブから、アプリケーションに最適なものを選択できます。

オシロスコープ関連資料

テクトロニクスでは、オシロスコープやプローブなどに関する資料や動画を公開しています。計測技術ラーニング・センター をぜひご活用ください。