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リアルタイム・スペクトラム解析を使用したEMI検証


概要

このアプリケーション・ノートでは、設計とテストの各 段階におけるEMI(電磁妨害)の測定技術とテスト機器 について説明します。また、現在規定されている検波方 式とフィルタリング方式、および規定測定バンドとそれ に関連したフィルタと検波器についても要約して説明し ます。最後に、ユニークな信号検出用DPX®(デジタル・ フォスファ・プロセシング)スペクトラム表示と、信号 取込み用周波数マスク・トリガを使用したEMI検証の例 を説明します。

はじめに

無線通信が始まった初期段階から、設計エンジニアにとってEMI (電磁妨害)は大きな課題の一つでした。初期のスパーク・ギャッ プ式送信機はスペクトラムを規制する機関がなく、2台の送信機が 近接していた場合には受信機で干渉が発生していました。この初 期の送信機では、1台の送信機は1台の受信機と通信を行う1対1 方式で、オン・オフ・キーイング(OOK)を使用したモールス・コー ドのデジタル形式で通信をしていました。多くの企業が無線通信 の分野に参入するにつれて、使用バンドの規則はこれらの競合企 業間での交渉によって決められました。これによって、より効率 的な変調技術、周波数割り当ておよび選択性に優れた受信機が実 現されました。エレクトロニクスが発展するにつれて、音声と映 像をアナログ形式で送れるようになり、また1対多数放送が可能に なりました。これにより通信事業者が専用使用するために放送バン ドを分割する必要性と、またこの通信によって干渉を起こす機器 の規制の両方が必要となってきました。再びデジタルに戻ること になりますが、通信は本質的にデジタル方式で行われるため、 UWB(ウルトラワイドバンド)システムや、免許不要のISM(工 業用、科学用、医療用)バンドを使用したBluetooth、WLANな どの多数のシステムでは、干渉をできるだけ少なくする必要があ ります。免許が必要な携帯電話、衛星通信、放送などのシステム においても、これらのシステムがこのバンドを高度な技術を用いて 利用するため、複雑でダイナミックなスペクトラム環境となってい ます。同じ時期に、コンピュータ、電子、電気機器などのシステ ムが急激に普及したため、より干渉の可能性が高くなっています。

監督機関では、EMIレベルに制限を設け、コンプライアンス・テストの測定方法を規定しました。この方法は、音声と映像のアナログ放送に適合するように、またテスト方法もその時代で可能な方法で策定され、数十年間行われてきました。

例としては、CISPR(国際無線障害特別委員会)のアベレージン グ方式や準尖頭値検波器があります。これらの測定技術は、干渉 信号を映像や音声が、人間の目で見る、または聞く際に、許容範 囲内に入るようなレベルにするためのものでした。デジタル変調 やUWBによる高速デジタル通信の出現により、予期しない干渉発 生が増加し、現在のEMIコンプライアンス規格では、今日発生して いるさまざまな干渉や通信システムに与える影響については完全 には対処できません。たとえば、瞬間的で間欠的な干渉は、瞬時 的に振幅が大きくても発生頻度が少なければコンプライアンスに 適合してしまいます。このようなパルスは、アナログ無線通信放 送に対する影響はほとんどありませんが、デジタル・システムに おける全データ・パケットの喪失や、近接レーダ・システムへの 電波妨害の原因になる可能性があります。

間欠的で高周波のショート・バースト干渉は、各種民生機器や通 信機器にますます多くなってきています。例としては、コンピュー タで使用するモード依存のスペクトラム拡散クロックや、組込み システム設計におけるハード・ディスク・ドライブの周期的でノ イズの多いハード・ドライブ・アクセス・サイクルなどがあります。 このような高度なデジタル・デバイスは、高速で周波数が変化す るとともに、パケット・ベース・モードで動作する無線通信と組 合せて使用することが多くなっています。ユビキタス接続に必要 な無線通信用送受信機が組込まれた高度なデジタル・コンピュー タや電話機には高速デジタル・システムが必要となりますが、そ れらを組込んだラップトップ・コンピュータや高性能携帯電話機 (図1参照)などはその一例です。図1の表で示されるデバイスや 受信バンドを高感度受信機と組み合わせると、意図しない干渉を 発生することがあります。

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図1. 今日のシステムは、RF送受信機やその他の干渉を起こす可能性のある発生源が近くに置かれているため、EMC設計や検出が難しいトランジェント干渉を発生し、トラブルシューティングをますます困難にしている
主なクロック・ソース
CPU 200+MHz
メモリ 200+MHz
I/Oコントローラ 133MHz
スイッチング電源 400kHz
グラフィック・プロセッサ 200+MHz

 

主なTX/RXシステムと受信帯域
RF受信機技術 RFキャリア Rx帯域
4バンド携帯電話 800/900/1800/1900/2100MHz 200kHz または 5MHz
Bluetooth 2.4GHz 1MHz
WLAN 2.4GHzまたは5〜6GHz 20MHz〜40MHz
WiMAX 2.3/2.5/3.5/4.9/5.0GHz 1.25/5/10/20MHz
放送映像 200/470/700/1400/1600MHz 1.5または6〜8MHz
GPS 1.5GHz 1MHz
NFC 13MHz 最高2MHz

通信システムにおける干渉の形態が変化したため、テスト機器も 変える必要がでてきました。従来アナログ回路で動作していた各 機能は、現在ではデジタル化された結果、測定スピードが高速化し、 より高速に測定結果が得られるようになっています。当社のリア ルタイム・スペクトラム・アナライザは、バンド内の情報を取り こぼすことなく瞬時に広スパンのスペクトラムを表示できます。 これにより、従来の技術では測定困難であったトランジェント・ ピーク信号を検出し、取込んで測定できます。

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図2. 150kHzから200MHzまでの信号のスキャン表示。準尖頭値検波器を全スキャンに使用。RSA6100Aシリーズによるスプリアス測定では、各周波数における上限を設定し、アンテナ補正係数を適用することにより、表示信号は傾斜のあるノイズ・フロアになる。ユーザ設定の上限を越えた違反部分は、表の中が赤色で表示される。詳細に観測するには、スクリーン上のメニューで、表示のどの部分でも拡大することが可能

検証、プリコンプライアンスおよびコンプライアンス

EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁環境適合性)測定 には、設計と検証の各段階で、異なった機器と技術を必要とします。 開発の初期段階におけるEMCの設計は、EMIの低減と外部および 内部からの干渉に対する耐性を実現するための各種検証に基づい て行われます。各種フィルタと検波器を持った汎用スペクトラム・ アナライザは、EMC設計における最適化の結果を検証するために 使用します。EMC設計の最適化およびシールドの効果を検証する ため、回路ボードに直接接触させて使用するプロービングや、電 界プローブまたは磁界プローブなどを使用します。当然のことな がら、優れたEMC性能を実現するまでは検証に制限はありません。 システム構築では、構築システム内の他のデバイスの劣化を起こ すことなく、RFサブシステムの性能を要求レベルまで高めるとき には、しばしば検証範囲の拡張やトラブルシューティングが必要 となります。プリコンプライアンス・テストは、設計上で問題と なる部分を検証するため、システム構築後に実行します。プリコン プライアンス・テストは国際規格に適合させるために実行するの ではなく、目的としては潜在的な問題を見つけ出し、またコンプ ライアンス・テスト時に不適合となる可能性を少なくすることで す。テスト結果に十分なマージンがある場合には、コンプライアン ス適合レシーバよりも精度とダイナミック・レンジが低く、コン プライアンスに適合していない機器でも使用可能です。プリコン プライアンス・テストは、問題の部分を素早く見つけ出すために、 認証済みの実験室かあるいは臨時のサイトで、エンジニアにより 高速測定技術を使用して行います。各種フィルタと検波器を持っ た汎用スペクトラム・アナライザは、既に設計過程で使用した高 速測定ツールであり、また追加の費用を必要としないため、しば しば認証以前に使用されます。この段階で問題が発覚した場合に は、より詳細な検証と設計変更が必要となります。RSA6100A シリーズは、検証機能の他にいくつかのプリコンプライアンス測 定機能も装備しています。アンテナ補正表とスプリアス・サーチ 機能を使用したCISPR QP検波トレースのプリコンプライアンス・ スキャン例を図2に示します。この図は、DUT(被測定デバイス) を接続していない状態で、周囲の信号をスキャンした結果を表示 しています。

国際規格に適合したコンプライアンス・テストは、手順書、機器および測定サイトを必要とします。一般的にコンプライアンス・テストは、機器の生産以前に設計認証の一部として行います。コンプライアンス・テストには手間と時間がかかりますが、製品開発段階でのEMC不良は、コスト増となる再設計や製品導入時期の遅れにつながります。

フィルタ、検波器およびアベレージング

レシーバとスペクトラム・アナライザは、信号レベルを測定できる受信帯域、信号検出機能およびアベレージング機能を備えています。

商用のEMI測定の多くは、国際標準化機構のIEC(International Electrotechnical Commission、国際電気技術委員会)の技術機 関、CISPR(Comite International Special des Perturbations Radioelectriques、国際無線干渉特別委員会)によって規定され た測定手法を採用しています。日本のTELECなど他の規格団体や 認証団体でも、測定手法および認証技術を持っています。米国防総 省は、軍装備品に対して特別な要求項目を持ったMIL-STD 461E を策定しました。

測定帯域は、レシーバでは帯域の形状、スペクトラム・アナライザの場合にはRBW(分解能帯域幅)フィルタで定義します。測定帯域は、問題となる帯域をカバーする必要があり、また受信周波数によって変わります。CISPRとMIL-STDのフィルタ形状については後述します。

検波器は、信号のある瞬間の一点の値を計算します。検波方法は、正または負のピーク、RMSまたは平均値があります。多くのEMI測定ではQP(準尖頭)値を用います。QP検波の詳細については後述します。

アベレージングは、時間とともに変化するような信号に対して実 行します。CISPR規格で定義しているアベレージングでは、応答 時間を設定したボルトメータで測定した信号値の結果を再生しま す。アベレージングではまた、規定された帯域のビデオ・フィル タを検波出力に適用しています。EMIテストでは、TELEC規格が ビデオ・フィルタを規定しています。CISPRアベレージングとビ デオ・フィルタについては後述します。

周波数レンジ 周波数帯域(6dB) リファレンス帯域
9〜150kHz
(バンドA)
100〜300Hz 200Hz
0.15〜30MHz
(バンドB)
8〜10kHz 9kHz
30〜1000MHz
(バンドCとD)
100〜500kHz 120kHz
1〜18GHz
(バンドE)
300kHz〜2MHz 1MHz

表1. CISPR 16-1-1で規定された帯域対周波数

フィルタの定義

レシーバまたはスペクトラム・アナライザで測定した不連続な信 号のレベルは、使用する測定帯域によって変化します。規格策定 機関では、一定した結果を得るために、コンプライアンス測定で 使用する帯域とフィルタ特性の形状を定義しています。CISPRの 場合には、ピーク、RMSおよびアベレージ検波器の帯域を表1の ように定義し、フィルタ特性の形状はCISPR16-1-1 ANSIで定義 しています。CISPRとMIL-STD 461Eのフィルタは−6dB帯域 で、スペクトラム・アナライザのRBW(分解能帯域幅)は従来の− 3dBで定義しています。スペクトラム・アナライザのRBWは、振 幅の等しい2つの連続波形信号が、スペクトラム表示上で明らかに 識別できる程度に分離していることと従来定義され、−3dB帯域 が規定されています。EMIアプリケーション用に特化したスペクト ラム・アナライザは、ユーザが選択可能な−6dBフィルタを備え ています(図4参照)。−6dB定義のフィルタと−3dB定義のフィ ルタとでは、その差は非常に大きくなります。RTSAで使用して いるシェープ・ファクタ4.1:1のガウシャン形状に近いフィルタ で、−6dB定義の100kHzフィルタを−3dBポイントで測定した ときには71kHz幅しかありません。ランダム・ノイズ電力の違いは、図4に示すように−3dBで定義した従来の100kHzフィルタ に比較して10×log10(71/100)、あるいは−1.49dBとなり ます。RBWが−3dB定義のスペクトラム・アナライザでは、同じ RBW値でもEMI規定のフィルタに比較してランダム・ノイズと インパルス・ノイズが大きくなります。

周波数レンジ 周波数帯域(6dB)
10Hz〜20kHz 10、100、1000Hz
10〜150kHz 1、10kHz
150kHz〜30MHz 1、10kHz
30MHz〜1GHz 10、100kHz
1〜40GHz 0.1、1.0、10MHz

表2. ANSI C63.2によるピーク、アベレージおよびRMS検波器で規定された帯域対周波数

周波数レンジ 周波数帯域(6dB)
30Hz〜1kHz 10Hz
1〜10kHz 100Hz
10〜150kHz 1kHz
150kHz〜30MHz 10kHz
30Mz〜1GHz 100kHz
1GHz以上 1MHz

表3. Mil-STD-461Eで規定された帯域対周波数

ANSI(The American National Standards Institute、米国規格協会)とMILSTD 461Eでも、フィルタの帯域を定義しています。選択した帯域は、表2と3で示すように測定周波数によって変化します。

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図3. −3dB(RBW)と−6dB定義のフィルタが選択可能なスペクトラム・アナライザ(1dB/div)
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図4. 100kHzフィルタで測定したランダム・ノイズ。黄色は−3dB、100kHz応答、青色は−6dB、100kHz応答。電力差は1.54dBで理論値とほぼ一致
性能 9kHz 〜 150kHz(バンド A) 0.15〜30MHz(バンドB) 30〜1000MHz(バンドCとD)
周波数帯域(6dB) 0.2kHz 9kHz 120kHz
検波器充電時間 45ms 1ms 1ms
検波器放電時間 500ms 160ms 550ms
臨界制動メータの時定数 160ms 160ms 100ms

表4. CISPR 16-1-1とANSI C63.2で規定された準尖頭値検波器の応答特性対周波数

検波方式

EMI測定の多くは単純なピーク検波器を使用していますが、EMI測 定規格では特別な検波方式のQP(準尖頭値)検波器を規定してい ます。QP検波器は、信号の持続時間と繰り返しレートによって信 号を加重して、信号のエンベロープの加重ピーク値(準尖頭値) を検波します。QP検波器は高速な立上り性能とゆっくりした減衰応答を持ち、表4で定義しているように臨界制動メータの時定数を 含みます。より頻繁に発生する信号は、間欠的なインパルス信号 に比較してQP測定結果は大きくなります。

準尖頭値検波器は、図5に示すように従来アナログ回路で設計されていました。

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図5. アナログ回路の準尖頭値検波器。QP検波器の高速立上り(充電)時間とゆっくりした減衰(放電)時間は、この回路のRC定数によって決められている。この波形を臨界制動メータで読み取る
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図6. 繰り返し信号に対する準尖頭値応答
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図7. 準尖頭値検波器のパルス応答カーブ
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図8. 8μsパルス幅で10ms繰り返しレートの信号におけるピーク検波と準尖頭値検波の違い。準尖頭値は、ピーク値より10.1dB小さくなっているのがわかる

図5において、入力信号Sinのエンベロープが電圧S1以上である限りは抵抗R1を通ってコンデンサCを充電します。入力信号Sinが電圧S1より小さい場合は、電圧S1は抵抗R2を通って放電されます。

図6では、QP検波器とそれに関連したメータとの組合せ応答を表示しています。入力信号の繰り返しパルスを青色で、高速立上りとゆっくりした減衰性能を持ったQP検波器の応答を緑色で、QP検波器とメータの組合せ応答を赤色で表示しています。

QP検波器付きレシーバの定数表示として、CISPR6-1-1規格による振幅と繰り返し周波数の関係を図7に示します。

ピーク検波とQP検波の例を図8に示します。ここでは、8μsパル ス幅で10ms繰り返しレートの信号におけるピーク検波とQP検波 の差を比較できます。QP値は、ピーク値より10.1dB小さくなっ ています。DUTからのEMIを測定するときは、規定された上限に 近づくか越えてしまうような問題部分を見つけ出すため、最初に ピーク値を測定するのが一般的です。QP値測定には時間がかかる ため、規定上限に近づくか越えるような信号のみを対象に測定を 行います。標準的なピーク検波器を備えたスペクトラム・アナラ イザは、問題部分を素早く見つけ出すためにしばしば使用されま す。

規格 VBW性能 アナライザのVBW設定
CISPR VBW不使用 最大値または無効
TELEC VBW=RBWまたは
VBW≧3×RBW
VBW=RBWまたは無効
MIL 最大値または不使用 最大値または無効

表5. EMI測定用に定義されたビデオ帯域設定

アベレージングとビデオ・フィルタ

リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(RTSA)はQP検波に加えて、CISPR規格で定義しているピークとアベレージの検波器もサポートしています。ピーク検波器は信号のエンベロープのピーク値を検波します。アベレージ検波器はエンベロープの平均値を計算します。RTSAはQP、ピーク値および平均値を同じ入力信号から同時に測定でき、DUTからの信号を詳細に観測できます。

EMI測定ではビデオ・フィルタを規定していますが、本来スペクト ラム・アナライザ測定におけるノイズ変動の影響を減少させるた めの方法でした。ビデオ・フィルタという名前は、スペクトラム・ アナライザの検波出力と、CRTのY軸アナログ・ドライブ入力間 にローパス・フィルタを挿入したことに由来しています。RTSA や最新のスペクトラム・アナライザでは、信号上のノイズをスムー ジングするためにデジタル技術を使用しています。

EMI測定のほとんどの場合、ビデオ・フィルタはオフに設定するか、あるいはRBWよりVBW(ビデオ帯域幅)が3倍以上大きいビデオ・フィルタを使用します(表5参照)。

ビデオ・フィルタをオフに設定する理由は(VBWがRBWの3倍以 下のとき)、検波信号にビデオ・フィルタの影響を与えないように するためです。図9は、RBWに対する比が変化したときのビデオ 帯域幅(VBW)の影響を示しています。VBW>3×RBWあるい は10×RBW(または無効)のときは、ノイズの標準偏差は 5.4dBのままです。TELEC規格のいくつかのセクションでは、 VBW=RBWのときのノイズ変化は、約4.7dBまで減少するとし ています。

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図9. ランダム・ノイズ信号の標準偏差におけるVBW/RBW比の影響。VBWが分解能帯域幅の3倍以上のときは、VBWが信号の標準偏差に与える影響はほとんどない

EMIフィルタ、検波器、アベレージングのデジタル化

離散フーリエ変換(DFT)技術を使用したスペクトラム・アナライザのフィルタリングは、離散的なアクイジション・データにウィンドウ関数を適用することによりデジタル的に行っています。アクイジション・サイズは、使用するフィルタの帯域によって決定します。サンプリング周波数を変えずにより狭いフィルタ帯域を得るには、より多くのサンプル数が必要となります。

EMIフィルタをエミュレートするため、RTSAではカイザ(Kaiser)ウィンドウを使用しています。ウィンドウ関数の周波数応答の振幅は、IFフィルタの形状を決定し、またCISPR 16-1-1で規定しているパスバンド選択の制限を満足しなければなりません。

RTSAのQP検波器は、デジタル・フィルタで構成されています。IIR(無限長インパルス応答)フィルタなどのデジタル・フィルタは、従来のEMIレシーバで使用しているRC充放電回路をエミュレートするために使用します。レベルメータもまた、2次デジタルIIRフィルタとして使用します。メータで表示された最大値は、QP検波器で測定した値となります。

ビデオ・フィルタは、RTSAのアベレージング技術により実現しています。アベレージ回数は、ビデオ帯域と測定時に使用するRBWにより決定します。VBWを使用したときの測定解析長は、選択したVBWで決定され、またビデオ・フィルタを使用しない状態 のRBWよ り 長 く な り ま す。RTSAは、 図9の ノ イ ズ 変 動 対VBW/RBWカーブで高い相関が得られるように、アベレージ回数を選択します。

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図10. 掃引型スペクトラム・アナライザのピーク・スキャンにより、トランジェントEMIを取込むことができなかった信号表示(黄色のトレース)。DUTのディスク・キャッシュ動作中に1分間のマックスホールド後の表示

測定スピードとリアルタイム・スペクトラム・アナライザ

QPと平均値の測定スピード向上は、レシーバとスペクトラム・ア ナライザにとって常に課題となってきました。QP検波器とメータ の応答時間が遅いため、1回ごとに広い周波数範囲をスキャンする には実用的ではありません。この欠点を補うため、ピーク検波器 を使用することによりDUTからのEMI信号の最大ピークを迅速に 測定することができます。次にQP検波器により、問題となる領域 で単一周波数測定を使用して繰り返し測定を行います。最近のレ シーバやRTSAでは、単一周波数測定技術よりも数段高速なQP検 波やアベレージングにより、広スパンで取込んだ情報を処理する ことができるようになっています。スパン内の全周波数ポイント を計算するこの手法は、測定スピードを大幅に向上させ、また掃 引型アナライザに比較してより高い捕捉確率でバンド内のトラン ジェント信号を見つけ出すことができます。これは今日の設計環 境において、時間とともに変化し移動する信号に対しては特に重 要です。単一周波数測定ではこのようなダイナミックに変化する 信号を取込むことはできません。

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図11. 5秒間のDPX表示で検出した間欠的なトランジェント信号。赤色の領域は頻繁に発生している信号を表し、青色と緑色の部分は間欠的に発生している信号を表す

EMI問題のトラブルシューティング

前述した規格に基づく測定方法が法令コンプライアンスで必要な 一方、システムのEMI設計で直面する問題にしばしば対処できず、 検出することさえもできていないのが現状です。1930年代のQP 検波器は、現在の通信とコンピューティング・システムが使用し ているトランジェント、ホッピング、デジタル変調およびUWB信 号が、今日のマルチプロセッサを使用した複雑な機器に与える影 響を測定するようには考慮されていませんでした。

幸いにも測定技術は、この必要性に対応して発展してきました。このセクションでは、トランジェント信号や隠れたEMI問題を検出し、その信号でトリガをかけて特性を解析するための、リアルタイム・スペクトラム・アナライザの使用方法を検証します。

次の例では、或る動作モード時に発生する1トランジェントが、 モードに入るごとに数秒間継続する一連のトランジェントを発生 させています。この例では、デバイスは組込みシステムで、シス テムがデータをハード・ディスク・ドライブにキャッシュすると きにトランジェントEMIが発生しています。掃引型アナライザの ピーク検波器で短時間測定すると、単に連続信号のように見えま す(図10の黄色のトレース)。ただしDUTが動作モードを繰り返 している間、アナライザを数分間マックスホールドにすると問題 が表示されます(青色のトレース)。しかし、ピーク検波モードで 高速スキャンを行うと、黄色のトレースが表示され、問題は検出 されません。

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図12. 毎秒1回の繰り返しレートで発生するトランジェントも、周波数マスク・トリガで取込むことが可能

図11に示すように、DPXによりDUTのEMIを測定することで、 直ちに問題を発見することができます。当社RTSAのユニークな DPXスペクトラム表示機能は、毎秒48,000回までのスペクトラ ム測定を処理することができ、また数十μs以上であればどんな信 号でも瞬時に取込んで表示できます。RTSAのDPXスペクトラム・ プロセッサの詳細については、「リアルタイム・スペクトラム・ ア ナ ラ イ ザ に お け る デ ジ タ ル・ フ ォ ス フ ァ 技 術 の 基 礎、 37Z-19638-x」をご参照ください。表示上のカラー・グレーディン グは、信号が発生する頻度を表しています。図11の例では、より 頻繁に発生する信号は赤色で、頻度が少ない信号は青色から緑色 で表示されています。これにより、どの信号が連続して発生し、 どの信号がトランジェントなのかが即座にわかります。トラン ジェント信号はまれにしか発生していませんが、連続信号に比較 してレベルが40dB以上高くなっています。

DPXによって潜在的な問題を発見した次のステップは、その信号 でトリガをかけて取込んだ後、より詳細な解析を行います。これは、 連続信号を基本にして周波数マスク・トリガを定義することによ り簡単にトリガをかけることができ、スペクトラム表示上で間欠 的に発生しているトランジェントを取込むことができます。周波 数マスク・スレッショルドを越えて規定時間以上持続する信号で あれば、その信号でトリガをかけて、プリトリガおよびポストト リガの信号をメモリに保存することができます。トランジェント 信号でトリガをかけて4アクイジション取込んだ結果を、図12の 左側のスペクトログラムで表示しています。

または、拡張DPX機能を装備している場合、DPXスペクトラム表 示上の対象となる領域で右クリックし、メニューからTrigger On Thisを選択することで簡単にトリガ設定できます。これでこの信 号を詳細に解析できます。図12で表示しているマーカは、トラン ジェントの繰り返しレートが1.0秒であることを示していますが、 ただしトランジェント長はいつも同じというわけではなく、この 例では、5回取込んだトランジションの長さが、752μsから200 μsまで変化しています。この繰り返し頻度とパルス幅(トランジ ション長)変化が、回路のトランジェント発生源を特定する重要 なヒントとなります。この例ではディスク・キャッシュ動作のとき、 DUTが特別な動作状態のときにのみ発生しています。

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図13. 最高リアルタイム帯域幅以上のスパンでは、分散されたステップでDPXは掃引される。それぞれのステップでDPX掃引をとどめておくように設定することで、確実な取込みが可能になる。この例では、間欠的ではあるが大きなパルスが5秒おきに発生している。ドウェル(滞留)時間を5秒に設定することで、確実に信号を取込むことが可能になる

DPX掃引解析によるトラブルシュート

上記の例では、DPXスペクトラム表示はその帯域幅内で実行され ています。これは、110MHzスパンのスペクトラムを連続的に処 理し、規定された最小滞留時間の信号が表示されることを意味し ています。必要とされるスパンが最高リアルタイム帯域幅を超え る 場 合 で も、DPXは ス テ ッ プ 状 に 実 行 さ れ ま す。 例 え ば、 300MHzのスパンが必要な場合、リアルタイム・シグナル・アナ ライザは必要な帯域幅をいくつかのステップに分け、切り替えて 表示を合成します。ステップごとの取込みにおける100% POI(捕 捉確率)の概念は適用されますが、各ステップが処理される掃引 期間のみとなります。DPX表示は、ステップの解析時間において 再発するトランジェント信号を取りこぼすことはありません。

DPX測定のドウェル時間を調整することで、間欠的に発生する信 号を取込む確率が高くなります。ドウェル時間の設定は、各ステッ プにおいて割り当てられた帯域幅にとどまる時間を設定するもの であり、50msから100sまで設定できます。シーケンス動作に5 秒を要するDUTを例に考えてみます。シーケンス実行時、DUTの 放射は変化し、トランジェントは次のシーケンスのみで繰り返し 発生します。すべてのトランジションを確実に取込むには、シー ケンスよりも長い時間でDPXを滞留させ、各ステップ、最低でも 1回のフル・シーケンスで発生させるようにします。例えば、 100MHzステップのDPXスペクトラム・アナライザで300MHz スパンを取込む場合、5秒間を3回取込むことにより、シーケンス のすべての信号を確実に取込むことが可能になります。従来のス ペクトラム・アナライザでは、すべてのトランジェントを観測す ることはできません。できたとしても、解析には膨大な時間が必 要になります。300MHzをステップ掃引した例を、図13に示し ます。大きなパルス信号は5秒間隔で1ms持続しており、数百 MHzのスペクトラムを占有しています。アナライザの各ステップ はリアルタイム帯域幅で5秒間滞留しているため、すべての掃引で 細部まで取込めます。

まとめ

EMI規格に準拠した測定を行うには、標準化団体で規定している特 殊なフィルタと検波器が必要となります。この特殊なフィルタと 検波器は、レシーバ、従来のスペクトラム・アナライザおよび当 社のRTSAに装備されています。RTSAやレシーバなどで使用し ているDSP技術は、掃引型アナライザの方式に比較して格段に高 速な測定ができます。これは110MHzまでの全リアルタイム・ス パンを同時に解析できるからです。

リアルタイム解析は、掃引型方式に比較してトランジェント信号の100%捕捉確率を保証する信号最小持続時間を大幅に短縮できます。多様なトランジェント信号が発生するシステムのトラブルシューティングは、どんなトランジェント信号でも取込んで解析できるDPXスペクトラム処理機能を持ったRTSAで簡単に実行できます。これにより測定時間を短縮でき、またDUTの性能をさらに向上できます。