自己校正と 1. アクティブ・プローブ校正
電気信号の挙動を見る目的で生まれたアナログ・オシロスコー プはそれまでのどの装置より、電気信号に対する観測力に優れ、 多くの産業の発展に貢献しました。デジタル・オシロスコープ への変化過程において「波形を数値化する」測定力を持ち、オ シロスコープはさらに大きく進化しました。その後もユーザか らの要求に応え続けることにより、オシロスコープは「流れる データの内容を吟味する」解析力さえ備えるに至りました。用 途の観点から見ても、「波形を観測しその性質を知る用途」に加 え、「不具合原因を探るデバッグ用途」、「波形の良否判定によ る自動化用途」、「規格適合性を知るコンプライアンス用途」と、 オシロスコープの用途は拡大してきました。
今日のオシロスコープは、もはや波形を見るだけの装置と考え てはいけません。オシロスコープに満載された豊富な機能を活 用するだけで、仕事を大きく効率アップさせることのできる魔 法のツールです。「知らなかった機能を使う」ことで効率アップ が図れます。この入門書では一歩進んだオシロスコープの活用 法をご紹介します。ぜひ仕事の効率アップに役立ててください。
なお、ここで紹介する機能の有無と操作メニューは、機種(型名)に依存します。ある機種においては機能が装備されない場合もありますし、操作メニューが異なる場合もあります。ここではテクトロニクス MSO/DPO4000/3000/2000 シリーズ・オシロスコープを中心にお話します。他のメーカのオシロスコープについても、多くの機種で同様の機能がありますので、大いに参考にしてください。
(1)「自己校正」と「アクティブ・プローブ校正」とは?
正しい測定をするのはなかなか大変です。測定のノウハウを 知りオシロスコープを「正しく使う」ことが必要です。測定対 象とオシロスコープを接続する「プロービング」もノウハウの 塊です。しかし、その前にやっておかねばならないことがあり ます。これをやらずにノウハウを駆使しても無意味です。確度 の高い測定ができないからです。それを可能とする機能は「自 己校正」や「アクティブ・プローブ校正」と呼ばれます。オシ ロスコープやアクティブ・プローブの内部回路をベストな状態 に調整する機能で、簡単な操作で実行できます。
(2)いつ、どのように実行する
室温が変化した場合や、小さな信号を高感度レンジで測定す る前に実行してください。信号を入力していないのに、GND(グ ランド)マークとトレースが一致しないとき(画面 1)も実行 のサインです。画面に現れた操作手順にしたがうことになりま す。テクトロニクス MSO/DPO4000/3000/2000 シリーズ・ オシロスコープの「自己校正」の場合は、すべてのプローブ・ケー ブル類をオシロスコープから外して、メニューを一押しするだ けです。5 〜 6 分ほどで終了します。「アクティブ・プローブ校 正」の場合は、プローブをオシロスコープに装着し指示された 信号源にプローブ先端を接続した後、メニューを一押しするだ けです。こちらも数分で終了します。
室温変化(例:10℃)
高感度測定(例:5mV/div)

(3)調整される箇所
「自己校正」や「アクティブ・プローブ校正」が終了すると、内部の残留オフセット電圧がキャンセルされ、垂直ゲインの誤差が最小になります。

(4)「自己校正」と「アクティブ・プローブ校正」をしないと…
オシロスコープやアクティブ・プローブの規格(スペック)はこれらの校正を終了していることが前提になります。これらの校正されていないオシロスコープやアクティブ・プローブはその規格を満たしていない可能性があります。
2.拡張トリガ その1
(1)まず「トリガ」について、おさらい
オシロスコープで波形を観測するためには、波形が画面上に静止していなければなりません。
この役割を果すのが「トリガ」機能です。トリガは条件を設定しておき、その条件が成立したら波形の取込みをコントロール(スタート / ストップ)する機能です。
一番シンプルなトリガは「エッジ・トリガ」と呼ばれます。図 1 および図 2 のように、波形との交点を決めるトリガ・レベルを適切に設定することにより、波形を画面上に静止させます。この静止した状態を「トリガがかかる」といいます。
(2) デバッグ用途の拡大(トリガは、 " 波形を止める " から " 特定波形の抽出 " へ)
10 数年程前までは、シンプルなエッジ・トリガしかなく、複雑な波形群の中に埋もれた特定の波形にトリガをかけることは困難でした。オシロスコープは当初からデバッグ用途(製品に生じた不具合の原因追求)に使われていましたが、複雑さを増した製品設計において、シンプルなエッジ・トリガしかないことが大きなネックとなって、デバッグは困難なものとなっていました。
製品を早く市場に投入するには、デバッグの効率化が必須です。
デバッグ効率化にはキーとなる以下の 3 つのステップがあります。
- 異常波形の有・無を目で見る(画面 1)
- 異常波形にトリガをかけ、画面中央に静止させる(画面 2)
- トリガ点の左側(過去の時間)から異常波形発生の原因を探す(画面 3)
を探す(画面 3) "2" のステップに対応すべく拡張トリガと呼ばれる種々のトリ ガが生まれ、特定の波形に簡単にトリガがかかるようになりま した。この拡張トリガによりオシロスコープのデバッグ力が向上 し、波形の観測用途のみならず、不具合のデバッグ用途がオシロ スコープの用途として大きな比率を占めるようになりました。

こうした異常波形にトリガがかかり、異常波形を画面の真ん中に表示できれば、その原因究明を開始することができます。なぜならば、時間的に古い時点に原因があり、そこから時間が経過した時点で異常波形が生じる訳ですので、画面の中央から左側(時間的に過去の部分)に、異常を引き起こす原因がひそんでいることになるからです。表示する時間幅を長くしたり、怪しいとにらんだ別波形を別チャンネルに表示し同時観測することにより、デバッグを進めていくことができます。

(3) パルス幅トリガ
拡張トリガの中でも、このパルス幅トリガは頻繁に使われます。デジタル・データのビット・ストリーム内において、パルス幅が想定外の変化(異常)をした時にトリガをかけ、画面を静止させることができます。
< 使用例 >
クロックやデータのパルス幅を知った上で、トリガ条件をそれより細い「パルス幅」とすれば、ごく幅の狭いパルス(グリッチ)にトリガがかかるかもしれません(画面 4)。この場合、「近接信号が漏れ込んだクロストーク」や、「メタ・ステーブル状態の発生」が疑われます。クロストークやメタ・ステーブルはごく幅の狭い異常パルスとしてデジタル・データの中に紛れ込み、装置に深刻なエラーを生じさせます。

(4) ラント・トリガ
非同期信号をフリップ・フロップで同期化するような時、発生しがちなメタ・ステーブル状態では、パルス振幅が想定外の変化(異常)をすることがあります。ラント・トリガは、これにトリガをかけ、画面を静止させることができます。
< 使用例 >
上下幅を持たせたトリガ条件を設定すれば、振幅の小さな異常波形にトリガかかるかもしれません(画面 5)。この場合、「メタ・ステーブル状態の発生」が疑われます。メタ・ステーブルは振幅の足りない異常パルスとしてデジタル・データの中に紛れ込み、

(5) ロジック・トリガ
デジタル信号で構成されたロジック回路の論理により、トリ ガをかけることができます。論理を構成するロジック回路を複 数のチャンネルに接続しておき、チャンネル間において AND、 NAND、OR、NOR などの論理が成立したとき、トリガがかか ります。接続できるチャンネル数は、簡易なロジック・アナライ ザ機能を内包するオシロスコープ(MSO と呼ばれる)において は、20 チャンネル程(16 チャンネルのデジタル入力部と 4 チャ ンネルのアナログ入力部を持つ場合)にもなります。
< 使用例 >
多くのオシロスコープの場合、論理の成立する時間幅もトリガ条件に加えることができますので、グリッチの発生を多チャンネルに渡り監視することもできます。どのチャンネルにおいてグリッチが起きるかが分からない場合、複数のチャンネルに信号をつなぎ、OR を選ぶことにより、多チャンネルを同時に(効率的に)監視し、異常波形の発生を捕らえることができます。

3 拡張トリガ その2
(6) セットアップ & ホールド・トリガ
クロックに同期してデータを読み取る多くのデジタル IC にとって、クロック・エッジの前後の一定時間幅において、データのロジック値が変化しないことが、安定した動作の必須条件です。これらの時間幅はセットアップ時間とホールド時間として、ICのデータ・シートに規定されています。
<使用例 >
メタ・ステーブルやグリッチなどの異常波形が観測された場 合、このセットアップ & ホールド時間違反もその原因の 1 つと して考えなければなりません。クロック・エッジに対してデー タのロジック値が安定していることを確認する作業が必要です。 ところが、多くの場合1クロックに対して確認できるのは、1デー タなのです。データは複数ですので、多数のデータから一本を 選び時間違反を確認し、この作業をデータの数だけ繰返すのは とても時間がかかります。そこで、1 クロックと複数のデータを 同時にオシロスコープに接続して、多チャンネルの時間違反を 一度に監視することができるオシロスコープが重宝します。一 度接続し、データ・シートに記載されたセットアップ時間とホー ルド時間をトリガ条件に設定したら、後はトリガがかかるのを 待つだけです。

(7) 立上り / 立下り・トリガ
CMOS への入力が(HI と LO の)中間電位に留まる時間が長いと、大きな貫通電流が発生します。この貫通電流により電源電圧変動が生じ、回路動作を誘発することもあります。これを避けるため、CMOS のデータ・シートにおいて入力信号の立上り時間を規定しています。こうした原因が疑われる場合、立上り / 立下りトリガは有効です。
<使用例 >
稀に発生する不具合の原因の 1 つとして、入力信号の立上りが遅すぎることが疑われる場合、CMOS の入力波形をオシロスコープに入力し、「立上り / 立下りトリガ」を選びます。データ・シートに記載された立上り時間をトリガ条件に設定したら、後はトリガのかかるのを待つだけです。

(8) ビデオ
PAL や NTSC や HDTV のようなビデオ信号に対して、このトリガにより指定した特定のラインやフレームやフィールドを表示することができます。映像信号を扱う機器において不具合が発生した場合や設計通りの動作をしているかを検証する場合、このトリガ機能が活躍します。例えば、特定ラインにおける波形を表示させ、その形とパラメータ(パルス幅や立上がり時間など)を確認することにより、設計を検証することができます。

(9) バス・トリガ
組込みシステムにおいては、コントロールに I2 C や CAN など の低速シリアル通信信号を用いたデバイス(IC やユニット)が 多く存在し、設計者の負荷を軽減し設計の効率化とボードの小型 化に寄与しています。長い年月使われ続けているパラレル・バス に加え、シリアル・バスがボード上のデバイスをコントロールす る主役になっています。ところが一旦、不具合が発生し、それら デバイスの動作を確認する必要が生じた場合、デバッグは困難を 極めます。旧世代のオシロスコープには、パラレル・バスはもち ろんシリアル・バスにトリガをかける機能がありません。バス・ トリガがあれば、バスを流れるデータの内容によりトリガをかけ ることができますので、飛躍的にデバッグを効率化できます。
<使用例 >
バスを流れるデータの内容によりトリガをかける機能は、多<の場合、データの内容をデコードし表示する機能と同時に供給されます。この2つの機能を合わせた使い方は非常に自由度が高く、強力です。
例えば I2C において、特定のデバイスに対してなされた特定の動作が疑われる場合、バスを構成する信号をオシロスコープに入力し、「バス・トリガ」を選びます。バスのアドレス値(特定デバイスに相当)データ値(特定動作に相当)をトリガ条件に設定したら、後はトリガのかかるのを待つだけです。
トリガがかかれば、疑わしい動作が画面の真ん中に表示されま す。同時にデータの内容も表示されていますので、その動作が設 計者の意図した動作であるかどうかすぐに分かります。動作が意 図しないものなら、原因究明も可能です。なぜならば、時間的に 古い時点に原因があり、そこから時間が経過した時点で異常波形 が生じる訳ですので、画面の中央から左側(時間的に過去の部分) に、異常を引き起こす原因がひそんでいることになるからです。 表示する時間幅を長くしたり、怪しいとにらんだ別波形を別チャ ンネルに表示し同時観測したりすることにより、デバッグを進め ていくことができます。

4 カーソルと自動測定
(1) カーソル登場前
オシロスコープの画面は垂直軸と水平軸を持ち、一目盛当たり の単位が明示されています。目盛いくつ分の大きさだと目で読み 取って、それを一目盛当たりの単位で換算することによって、初 めて波形の大きさを知った訳です。つまり、一目盛 1V と明示さ れた画面において、5 目盛分の大きさで描かれた波形は 5V の大 きさを持つことになります。ところが、実波形がちょうど切りの いい大きさではない時(例えば、6.2 目盛)は換算も楽ではあり ませんし、観測者によっては、6.1 目盛と読み取るかもしれませ んし、6.3 目盛と読み取るかも知れません。
(2) カーソル
そこでカーソル が 登 場 し ま し た。 カーソルは波形の 要素(パラメータ という振幅や周期 など)を数値化す るために使われま す。まさに波形に 定規を当てるよう に、2 本の線(“カー ソル”と呼ばれる)を測定したいポイントに移動するだけで、 その点のパラメータ(電圧や時間)を数値化し画面に表示してくれます。カーソルを使えば、目で読み取らなければならない「ストレス」と頭で換算するときの「計算ミス」から開放されます。波形の大きさや距離を、目で見て、頭で換算するしかなかったオシロスコープに、カーソル機能が、強力な「測定力」を加えました。

カーソルには波形データの部分のみをなぞることのできる「波形モード」と画面のどの部分でもなぞることのできる「スクリーン・モード」があります。
カーソル : 波形モード
波形モードのカーソルは縦 2 本の直線で構成されます。波形 データとこれらの直線は必ず交差しますので、交差した点が 2 つ発生します。これらの点と点の間を縦に測れば、電圧、横に測 れば、時間を測ることができます。これらの点は必ず測定対象の 波形データ上を動くことになりますので、新たな測定点を定める ときも、横の移動量のみに注力すれば OK です。縦方向の移動量 を気にする必要がありません。確実に素早く波形を測定すること ができます。

カーソル : スクリーン・モード
スクリーン・モードのカーソルは縦 2 本、横 2 本の合計 4 本 の直線で構成されます。縦の直線と横の直線が交差する点は 4 カ所生じますが、この内、対角の 2 点を使います。これらの点 と点の間を縦に測れば、「電圧」、横に測れば、「時間」を測るこ とができます。これらの点は波形に関わらず、画面上のどこにで も移動できますので、自由度の高い測定が可能です。例えば、画 面上から消え入ろうとしている残光部分(残光部分とは、かつて 波形データにより一度描かれた波形が、画面に表示データとして 残っているだけで、すでに波形データはない)でも対象にするこ とができます。

(3) 自動測定
自動測定機能を使えば、カーソル機能よりさらに簡単に波形パ ラメータを測定することができます。よく使われる何種類ものパ ラメータがオシロスコープ内にあらかじめ準備されており、ユー ザはそれを選択するだけで、波形のパラメータが自動的に計算さ れ、画面に表示されます。ユーザは「ストレス」と「計算ミス」 から開放されるばかりではなく、波形にカーソルを当てることか らさえ開放されます。自動測定機能がオシロスコープの「測定力」 をさらに強力なものと変えました
ノイズが多い場合、ノイズに関してヒストグラムをとり頻度の一番多い点を自動的に測定対象とすることもできますので、人の勘に頼る必要もありません。ノイズで膨れた波形に「この辺かな…」とカーソルを当てるよりずっと正確な測定ができます。測定対象となる波形の「ここからここまで」と測定対象範囲まで、指定することができます。
しかし、これら非常に便利な機能は諸刃の剣であることを忘れ てはなりません。測定の基本を知らなくても、それらしい結果が 得られますが、パラメータの定義も理解せず、垂直軸・時間軸を 不適切に設定したままでは、行った測定は間違いだらけの結果と なります。例えば、「ピークツーピーク」自動測定と「振幅」自 動測定は定義が違いますし、立上り時間測定にも 10%‐90%定 義と 20%‐80%定義があります。これら便利な自動測定機能は 測定の基本を身につけ、パラメータの定義を理解したエンジニア のための機能です。初心者レベルのエンジニアは、決してご乱用 なきようご注意ください。

5 合否判定
合否判定は、オシロスコープが自動で波形の不良を検知して ユーザに通知したり、不良波形を保存したりする機能です。波 形を取り込むたびに正常な波形(幅)と比較し、設定した基準 値(幅)を外れた時、ビープ音、E-mail、SRQ 波形取込停止、 プリンタ印刷、ファイル保存などの処理をします。合否の基準 値(幅)さえわかっていれば、合否判定機能はいろいろな使い 方が可能です。デバイスの良品、不良品を選別する「自動化」 用途や、通信の規格に沿っているかを判断する「コンプライア ンス」用途や、稀に発生する不良波形を捕らえるような「デバッ グ」用途に使えます。
波形を観測することにより、「波形の性質を知る」用途が、オシロスコープにとって最も基本的な用途ですが、合否判定機能を持つオシロスコープは、「デバッグ」用途や「自動化」用途や「コンプライアンス」用途に対応できるようになり、使用される機会を大きく広げました。
(1) リミット・テスト
まず良品と認める実波形を選び、その波形を上下左右に膨らま せ、幅を持たせます。こうしてできた波形幅(テンプレートと呼ぶ) が合否判断の基準となります。つまり取り込まれた波形がテンプ レートに収まっていれば「良」、テンプレートをはみ出せば「不良」 となるわけです。複数のチャネルを対象にしたリミット・テスト も可能です。どのチャネルに不良があっても、リミット・テスト は機能し、ユーザへの通知と、不良波計の保存を行います。4 つ のチャネルで 4 種のテンプレートを用いて信号を監視しておけ ば、合否判定の効率を上げることができます。



(2) マスク・テスト
本来マスク・テストは、の ITU-T G703 や 100BASE-TX な ど規格化された通信のマスクに対して、通信信号の規格適合性 を判定するものです。しかし、多くのマスク・テストにおいて は、ユーザが自由にマスクを描くことができる機能(ユーザ定 義可能なマスク)があります。これを使えばリミット・テスト のテンプレートと同じ働きをしますので、合否判定ができます。 元来マスクはシンプルな凹凸型や四角や六角の集合体ですので、 ユーザ定義マスクといえども、あまり複雑な形を描くのは得意 ではありません。しかし、次の図のように波形の合否判定には 十分です。

(3) 自動測定値
オシロスコープによっては、自動測定(前回を参照)の値を使って合否判定することができます。自動測定はオシロスコープが波形のパラメータを測り、画面にその結果を表示する機能ですので、リミット・テストやマスク・テストのようにわざわざ判定のためのテンプレートやマスクを作る必要がありません。
自動測定の項目を選択し、測定結果が設定したリミットを超えると、パルスを出力したり、波形を止めたり、当該波形を保存したりして合否をユーザに知らせます。自動測定は種類を多く、オシロスコープによっては 20 種類以上もの項目があります。シンプルな振幅や周期以外にも、オーバシュート量やデューティ比やパルスの数さえも対象とできますので、自由度が高く、広範な現象に対して合否判定を用いることができます。
6 波形/設定の保存/呼出
デジタル・オシロスコープの内部でデジタル・データ化された 「画面イメージ」や「表示波形」や「パネル設定」は簡単に、メ モリに保存したり、オシロスコープに再度呼出したりすることが できます。波形 / 設定の保存 / 呼出はデジタル・オシロスコープ ならではの機能です。波形の保存 / 呼出機能と設定の保存 / 呼 出機能を使えば、遠い現場にあるオシロスコープのデータを活用 したり、繰返し行わなくてはならない作業を省略することができ、仕事をおおいに効率化できます。
(1) 画面イメージを(写真に撮ったように)保存 → PC で呼出す
画面イメージを写真に撮ったように保存できます。BMP 形式や JPEG 形式や PNG 形式で USB メモリに保存しますので、PC で開き、レポートの作成に使えます。
(2) 波形数値データを CSV フォーマットで保存 → PC で呼出す
で呼出す 表示波形を数値データとして保存できます。保存形式としてCSV を選べば、USB メモリに保存して PC で開き、表計算ソフト(Excel など)で解析ができます。
(3) 波形数値データを保存 → 波形を画面に再現する
表示している波形を数値データとして保存できます。保存形式 として機器依存の特殊な形式(内部形式と呼ばれる)を選び一旦 USB メモリに保存しておけば、後に、同種のオシロスコープに 呼び戻すことができます。内部形式の数値データは、USB メモ リからオシロスコープ内部の比較用メモリ(リファレンス・メモ リと呼ばれる)に移動され、画面上にリファレンス・メモリ波形 として表示されます。
表示波形をリファレンス・メモリに直接保存することもできま す。リファレンス・メモリに保存された波形は、すぐに、オシロ スコープ画面にリファレンス・メモリ波形として表示することが できます。リファレンス・メモリに保存された波形は自由度が高 く、移動させたり、拡大 / 縮小させたりできますので、オシロス コープで取り込まれたライブな波形と比較することが容易です。 装置の特性改善を施した場合の効果を確認するため、改善前の波 形をあらかじめリファレンス・メモリに保存しておき、改善後の 波形をオシロスコープに入力し、リファレンス・メモリ波形と比 較することができます。
< 使用例 >
波形の保存・呼出機能を使えば、時間的に制限のある現場において、次々と波形を保存しておき、後でじっくりとオシロスコープに呼出して解析することができます。
(4) 設定を保存 → 同じ設定を再現する
オシロスコープのパネル設定(垂直軸、時間軸、トリガ・レベ ルなど)が保存できます。保存先として USB メモリおよび内部 設定メモリが選べます。後でオシロスコープに呼び戻すことによ り、まったく同じ設定を復元することができます。同じ機種(シ リーズ)であれば互換性がありますので、遠隔地にあるオシロス コープで保存したパネル設定を、机上のオシロスコープで再現す ることができます。
< 使用例 >
今使用しているパネル設定を、後日再度使いたいとか、設計と製造との間で同じパネル設定を使ってデータを検証したいとか、パネル設定に依存するバグを再現させたいとか、工程に合わせた複数のパネル設定を切り替えつつ製造する場合などに効果を発揮します。

7 波形演算
デジタル・オシロスコープはデジタル化した波形数値デー タを扱いますので、波形を足算したり、引算、掛算したりす ることだけではなく、微分したり、積分したり、FFT(Fast Fourier Transform: 高速フーリエ変換)をかけたりすることを 簡単にやってのけます(こうして創られた波形を MATH 波形と 呼びます)。ごく一部の機能はアナログ・オシロスコープにもあ りましたが、このような「波形演算(MATH)」と呼ばれる機能は、デジタル・オシロスコープにおいて大いに発達した機能です。 この機能により、観測し測定する力に加え、解析する力を得た オシロスコープは、さらに広くさまざまな用途に使われるよう になりました。例えば、掛算により電力測定、引算により差動 測定、FFT により高調波測定、演算式により自在な演算を行う ことができます。
(1) 掛算による電力測定
スイッチング電源において、トランスなどの部品の小型化が望めますのでスイッチング周波数を高くすることが望まれます。しかし、電流・電圧の立上り / 立下り時間の区間において下図のようなスイッチング損失が生じますので、周波数が上がると損失が増加し、スイッチング電源の効率悪化をまねきます。

一方、立上り / 立下り時間を早めると、今度は高調波ノイズが 増加します。これらの要素が絡み合うスイッチング電源において は、スイッチング損失を実際に測定することが必要です。スイッ チング損失はスイッチング時の電力波形を測定することにより、 測ることができます。ただ、電力波形は実回路上に存在しません。 存在するのはスイッチング素子に加わる電圧波形と、そこを流れ る電流波形です。そこで 2 つのチャネルで電圧波形と電流波形 を取込み、波形演算機能の掛算が使われます。電圧と電流を掛け れば電力ですので、電圧波形と電流波形を掛算し電力波形を作り ます。電力波形により、平均電力や瞬時電力がすぐに分かります。
(2) 引算による差動測定(フローティング測定)
ある電位を持つ B 点を基準にして、別電位を持つ A 点を測定することをフローティング測定といいます。A 点と B 点との間の波形を見るため、B 点にプローブのワニ口グランドをつなぐと、信号源 2 はショートされます(下図)。プローブのワニ口グランドは、電源ケーブルの GND 端子を通して対地アースに接続されているからです。

電源ケーブルの GND 端子をアースに接続しないという危険な方法を用いなくても、安全に行う手法があります。それが波形演算の引算を使う手法です。プローブ 2 本を A 点と B 点につなぎ、引算(CH1 − CH2)を行えば、A 点と B 点との間の波形をオシロスコープに表示させることができます。

(3) FFT による高調波解析
複雑な波形も周期性があるなら、基本波とその整数倍の正弦 波・余弦波の和として表現できるというフーリエ変換処理を行 い、波形演算機能の FFT は、時間領域の波形を周波数領域表現 に変換できます。FFT は、時間領域波形を、含まれる周波数に 分解し、各周波数の大きさを表現しますので、どの周波数成分 がどれだけ含まれているかを知ることができます。これにより 時間領域表現では決して分からない、波形の性質が見えてきま す。例えば、時間領域表現では歪みのないサイン波に見えても、 周波数領域表現で見ると高調波成分が見え、歪んでいることが 分かります。

(4) 演算式による自在な演算
単純な四則演算のみならず、複雑な計算式を用いて波形を創ることもできます。不等号や論理演算子などの数学記号が使えlog や微分、積分などの関数も使えます。加えて、計算式の要素として、実波形データ、保存した波形データ、自動測定したパラメータ、任意の固定値を自在に組み合わせることができます。微分(CH1)
CH1 + 実効値(CH2)
CH1 + 1 volt

演算式の Trend を使えば、パラメータ自動測定の値が画面内においてどのように計時変化しているかを見ることもできます。

8 高速取込み/階調
特別なモードを除き、オシロスコープは連続発生している波形をペン・レコーダのように切れ目なく連続して描き続けている訳ではありません。
連続発生している波形の一部を切り出し、表示しては、また 切り出し、表示するという動作を繰返しています。つまり、切 り出しと切り出しとの間には切り出せない部分があるのです。 この切り出せない部分は見ることができませんので、デッド・ タイムと呼びます。このデッド・タイムがデジタル・オシロス コープでは非常に大きいのです。これが、アナログ・オシロス コープからデジタル・オシロスコープへの進化の過程において、 1 つだけ退化した性能です。非常に稀に発生する異常信号をイ メージしてください。稀にしか発生しない異常信号が切り出せ る(見える)かどうかは、デッド・タイムが大きければ大きい程、 確率的に低くなります。つまり、「異常の有無に関する」情報が 欠落します。デッド・タイムは波形の見た目にも大きく関わり ます。
切り出された波形の描き方は最初明るく、だんだんと暗くなる ように表示されます。一定時間(数十 ms)後には波形は画面か ら消えてなくなります。次から次へと切り出された波形が高速に 描かれつつ、消えていけば、画面は濃淡(階調)のある豊かな表 現となり、波形の挙動が見て取れます。しかし、稀にしか切り出 されない場合はまるで一筆書きのような薄っぺらな表現となって しまいます。デジタル・オシロスコープのデッド・タイムは大き いので、階調による「頻度に関する」情報が欠落します。

デッド・タイムが大きいことによる 2 つの問題を解決したのが、DPO と呼ばれるオシロスコープです。デッド・タイムをアナログ・オシロスコープ並に最小化することに成功し、「異常の有無に関する」情報と「頻度に関する」情報を取り戻すことができました。

< 使用例 1>
画面の中に描かれる波形の濃淡は波形の発生頻度に比例しま す。濃い部分の頻度は高く、淡い部分の頻度は低いことが読み取 れます。ビデオ信号の観測において、輝度の濃淡によって表現さ れた振幅変動や輝度変動などから、ビデオ信号品質の評価をする ことがあります。アナログ・オシロスコープと比較して遜色ない 濃淡表現を可能にしたことにより、波形の観測力を高め、波形の 挙動を知ることができます。
<使用例 2>
早く製品を市場に投入するには、デバッグの効率化が必須です。デバッグ効率化にはキーとなる 3 つのステップがあります。
- 異常波形の有・無を目で見る
- 異常波形にトリガをかけ、画面中央に静止させる
- トリガ点の左側(過去の時間)から異常波形発生の原因を探すです。
異常波形を目で見て、トリガをかけ、異常波形を画面の真ん中 に表示できれば、その原因究明を開始することができます。なぜ ならば、時間的に古い時点に原因があり、そこから時間が経過し た時点で異常波形が生じる訳ですので、画面の中央から左側(時 間的に過去の部分)に、異常を引き起こす原因が潜んでいること になるからです。表示する時間幅を長くしたり、怪しいとにらん だ別波形を別チャネルに表示し同時観測することにより、デバッ グを進めていくことができます。
DPO はデバッグの開始時点における「観測力」が飛躍的に高く、異常波形を目で見ることができます。そのため、その後に続くトリガ操作が容易になり、著しい効率化を図ることができます。

9 ロング・レコードの検索
(1) レコード長(メモリ長)の長さが引き起こすストレス
デジタル・オシロスコープは波形を点で描きます。見せ方の工夫により、波形は線のように見えますが、基本的に点で描かれています。点の数が多いほど表示波形は細かい表現ができ、波形の微細な形を描くことができます。この点の数をレコード長(メモリ長)と呼び、その数は多く(長く)なる一方です。今日 10M ポイント(1,000 万ポイント)ものレコード長も珍しくありません。
同じ細かさで描くのでしたら、長いレコード長は記録時間の拡 大に直結しますし、記録時間を固定するなら、長いレコード長は 波形をより細かく描くことができます。不良原因の追究(デバッ グ)においては長いレコード長が効果的です。ある時点で不良が 見つかれば、その時点よりさらに時間的に古い時点にその不良の 原因がある訳ですので、異常を引き起こす原因をより確実に捕ら えるには記録時間が長いに越したことはありません。表示する時 間幅を長くしておけば、その中に不良の原因が捉えられている可 能性が高くなりますので、デバッグを効率化できます。
と、ここまでは波形をレコード長に取込むまでの話です。実 際問題はこの後に生じます。尋常な方法では取込んだ波形を見 られないのです。初期のデジタル・オシロスコープのレコード 長は 512 ポイントで 1 画面を形成していました。これを 1 ペー ジとすると、2 万倍もの長さのレコード長は、2 万ページに等し い巨大さとなります。想像してください、2 万ページもの本を 読めますか ? 優れたツールなしでは、ワラの山から一本の針を さがすような非効率な作業となってしまうことがおわかりにな ると思います。
(2) WaveInspector 登場
そこで、専用のツールが必要となります。長大なページを簡 単にめくる機能や、興味のあるページにはシオリをはさむ機能 や、シオリから次ぎのシオリへジャンプする機能がなくてはな らない機能でしょう。もっと便利なのは、全ページに対して検 索をかけ、条件にかなったページをピックアップする機能でしょ う。これらの機能があって初めて、2 万ページもの長いレコー ド長が読めるわけです。これらの機能が WaveInspector にすべ て集約されています。
<使用例>
ここでは、WaveInspector の例をとります。まず、専用のダ イアルとボタンで構成されている点が特筆される特徴です。カー ソルや数値代入と兼用させられる汎用ダイアルではありません。 深いメニュー階層に置かれた拡大メニューではありません。使 いたいと感じたときにすぐそこにある専用ダイアル / ボタンで す。長いレコード長にギッシリと詰め込まれた無数の波形のど の部分をどのくらい拡大するかも、直感的に専用ツマミを回す だけで OK です。長いレコードの端から端までスクロールする のも PLAY ボタンによる自動スクロールが可能です。スクロー ル・スピードも直感的にダイアルをネジるだけです。早くも遅 くも逆方向へも思いのままにコントロールできます。
スクロール中に興味深い箇所が見つかれば、その箇所にマークを付けることができますので、後ほどマーク箇所に戻ることが簡単にできます。複数のマークが付けられた場合も、矢印ボタン 1 押しで簡単にマークとマークの間をジャンプできますので、興味深い箇所のみを効率的に見ることができます。
「トリガ」と「検索」の連係も完璧です。ある条件に合ったときにある処理をするという点において、「トリガ」と「検索」は似たもの同士です。「トリガ」は、流れる実波形を対象に条件を探し、 「検索」は取込み終えた波形を対象に条件を探すという違いだけです。
「トリガ」がかかり、取込んだレコード長の中をさらに「検索」 して、条件を探すこともありますし、逆にレコード長の中から 「検索」で見つけた条件を使って、もう 1 度「トリガ」をかけ て、波形を取込み直すこともあります。よって、「トリガ」に関 する設定内容と「検索」に関する設定内容は、互いにコピーで き、効果的に運用することができます。これらの機能はすべて WaveInspector で行うことができます。

10 シリアル・バスの解析
(1) シリアル・バスって何 ?
波形の形を観測したり、波形のパラメータ(大きさや時間)を 測定する機能と比べると、シリアル・バス解析機能はちょっと 毛色が違っています。I2 C や CAN や RS232C などのシルアル・ バスを流れるデータを読み解き(デコード)、表示する機能です。 シリアル・バスとは、I2 C、SPI、CAN、LIN や RS232C のよう に規格化された「低速シリアル信号」の流れるバスのことです。 シリアル信号と呼ばれますので、1 本の信号線で伝送されるよう に誤解されがちですが、規格によっては 2 本の信号線や 3 本の 信号線を要します。複数の信号線がバスを形成する状態からシリ アル・バスと呼ばれます。

(2) シリアル・バス解析
シリアル・バス解析機能を持つオシロスコープは、データの内 容をデコードする点でプロトコル・アナライザの機能を持ったオ シロスコープということができます。シリアル・バスを流れる信 号を規格にしたがいデコードします。デコードしたデータの表示 の仕方に 2 通りあり、シリアル・バスを流れる実波形に沿わせ るようにデコード値を表示することもできますし、デコード値の みを一覧表(イベント・テーブル)にして表示することもできま す。不具合の原因追及(デバッグ)過程において、ソフトウェア の内容に特化してデバッグを進める場合にはイベント・テーブル が効率的ですし、他の波形との因果関係を追跡する場合には実波 形に沿わせた表示が役に立ちます。

オシロスコープがシリアル・バス解析機能まで持つに至った 背景には、組込みシステムの隆盛があります。コンピュータを 内蔵しながらも、コンピュータの存在を意識させない機器を組 込みシステムと呼びますが、冷蔵庫からロケットまで、今日の 多くの機器が組込みシステムです。これら組込みシステムの内 部で使用される IC など多くのデバイスは、シリアル・バスによ るコントロールを用いています。シリアル・バスによるコント ロールは設計の効率化に大いに寄与しますが、一旦不具合が生 じるとやっかいです。オシロスコープで波形を観測しても、デー タがシリアル列として連続するだけで、何が何やら全くわかり ません。
古くから、オシロスコープはいろいろな機器の設計から製造、 検査と多くの局面で不具合のデバッグに使われてきましたが、 波形を見るだけのオシロスコープでは、ことシリアル・バスの 解析に関しては無能でした(シリアル・バスの解析機能が可能 になる前は、I2 C 信号なら、クロック・エッジごとにデータの HI/LO を記録して、I2 C のプロトコルに従い手作業により、デー タの内容をデコードしなければなりませんでした)。とても時間 のかかる非効率な作業を強いることになります。ところが、シ リアル・バス解析機能を持つオシロスコープは、そんな作業を 一瞬にしてこなします。
< 使用例>
組込みシステムのエンジニアの守備範囲は広く、「ソフトウェ アは正しく動作しているのか ?」「ハードウェアは正しく動作し ているのか ?」「特定のコマンド・データを送った時のシステム の振る舞いは ?」と多方面に気を配らなくてはなりません。シ リアル・バス解析機能を持つオシロスコープは、ソフトウェア の動作(例えば、特定のコマンド・データがバスに流れた)を 感知することができますし、その後に続くハードウェアの動作 (例えば、IC の出力波形)を確認することができます。ソフトウェ アの動作がおかしい(例えば、特定のコマンド・データがバス
に現れない)場合は、その前に流れたデータの内容を読み解き、原因(例えば、プログラムの不備)を見つけることもできます。
シリアルの伝送方式は、データが時間方向に結合された形で すので、単純に言うと、8 ピットのパラレル伝送方式をシリア ルの伝送方式にすれば、8 倍超の長さになります。したがって シリアル・バスの解析には長いレコード長を必要とします。レ コード長に関しては、今日のオシロスコープの多くは十分な長 さ持ちますが、問題は、その長いレコード長をストレス無く使 いこなすツールを装備しているかどうかです。WaveInspector のようなツールなしでは、長いレコード長を扱う作業は、ワ ラの山から一本の針を探すような非効率な苦痛の満ちたものと なってしまいます。逆に WaveInspector のようなツールがあれ ば、検索やマーク付け機能により、シリアル・バスに流れる特 定のデバイスを指定したり、特定の動作を指定したりできます ので、ストレスなく効率的にデバッグを進めることができます。

11 MSOによるバスの解析
(1)MSO はパラレル・バスの解析に最適
パラレル・バスの解析機能を持つオシロスコープは MSO と呼ばれ、簡易型ロジック・アナライザ機能を内包しています。2 〜4 チャネルの通常のアナログ入力部に加え、多チャネルのデジタル信号(1 か 0 という 2 進の論理値を持つ)を扱うデジタル入力部を持ちます。デジタル入力部のチャネル数は各メーカのモデルにより、8 〜 32 チャネル程の数になります。

デジタル入力部は主にロジック回路に接続され、論理動作の解 析を行います。8 ビットや 16 ビットのパラレル・バス(例えば、 CPU アドレス・バスやデータ・バス)をモニタすることもでき ますし、数ビットのパラレル・バス(例えば、マルチ・プレクサ の入力コントロール・バス)を解析することもできます。観測で きるチャンネル数が大きく増え、バスの内容をデコードすること による解析力が上がりますので、デバッグ用途に広く使われるよ うになりました。
(2) 組込みシステムはミックスド・シグナル環境
組込みシステムにおいては、センサ出力などのアナログ信号 (連続的に変化する量を持つ)も、シリアル・バスやパラレル・ バスを流れるデジタル信号(1 か 0 という 2 進の論理値を持つ) も使われます。例えば 1 つの基板上において、センサ出力を受 け A/D 変換したデバイスが I2 C や SPI などシリアル・バス経由 でデータを転送し、CPU からのパラレル・バスがそれらをコン トロールする。このようなアナログもデジタルも混在した環境 をミックスド・シグナル環境と呼ばれます。
組込みシステムにおいては、アナログ・デジタル混在するハードウェアに加え、シリアル・バスを流れるソフトウェアおよびパラレル・バスを流れるソフトウェアが複雑に絡み合います。組込みシステムのデバッグが困難を極めることは容易に想像できます。

(3) MSO の用途はパラレル・バスの解析のみに非ず
この環境において効果的なデバッグを行うキーは、チャネル数 の限られたアナログ入力部と豊富なチャネル数を持つデジタル入 力部の使い分けです。デジタル信号だからといって常にデジタル 入力部につないでいるだけでは、見えるものも見えません。デジ タル信号も不良動作の原因追及をするデバッグ時においては、ア ナログ入力部に接続して、波形の挙動を詳細に観測しなければな りません。アナログ入力部による詳細な観測を行って初めて、メ タ・ステーブル状態やグリッチの発生がわかるのです。
逆に、I2 C や SPI のようなシリアル・バスを流れる信号を常に アナログ入力部につないでおこうとすると、2 〜 4 チャネルし かないアナログ入力部はすぐに一杯になってしまします。例えば、 シンプルな組込みシステムにおいても、I2 C と SPI が同時に使わ れることはよくありますが、信号線 2 本の I2 C と信号線 3 本の SPI を同時にアナログ入力部につなぐことができません。このよ うな時、シリアル・バス解析をデジタル入力部に任せることによ り、アナログ入力部に空きをつくることができます。空きができ たアナログ入力部を本来の目的である、詳細な波形の挙動観測に 向けることができます。
MSO の用途はパラレル・バスの解析のみならず、シリアル・バスの解析にも使える優れものです。デジタル入力部とアナログ入力部を使い分ける効果的な運用により、不良の原因を追究するデバックを最高に効率的にこなす最高のツールなのです。
WaveInspector のようなツールを兼用することも効率化に大いに寄与します。デコードした内容により検索やマーク付けを行うことができます。これにより、シリアル・バスやパラレル・バスに流れる特定のデバイスを指定したり、特定の動作を指定したりできますので、効率的にデバッグを進めることができます。
最後に
電気信号の挙動を見る目的で生まれたアナログ・オシロスコープはそれまでのどの装置より、電気信号に対する観測力に優れ、多くの産業の発展に貢献しました。デジタル・オシロスコープへの変化過程において「波形を数値化する」測定力を持ち、オシロスコープはさらに大きく進化しました。
その後もお客様からの要求に応え続けることにより、オシロスコープは「流れるデータの内容を吟味する」解析力さえ備えるに至りました。用途の観点から見ても、「波形を観測しその性質を知る用途」に加え、「不具合原因を探るデバッグ用途」、「波形の良否判定による自動化用途」、「規格適合性を知るコンプライアンス用途」と、オシロスコープの用途は拡大してきました。
今日のオシロスコープは、もはや波形を見るだけの装置と考えてはいけません。オシロスコープに満載された豊富な機能を活用するだけで、皆様の仕事を大きく効率アップさせることのできる魔法のツールです。「知らなかった機能を使う」ことで効率アップが図れます。この入門書では一歩進んだオシロスコープの活用法をご紹介しました。基礎編の「オシロスコープの基本を身につける」とあわせて、ぜひ仕事の効率アップに役立ててください。

「デバッグ時間は、もっと減らせる」
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